街なかを金魚が泳ぐ不思議な光景 奈良県大和郡山市を探索
屋台の金魚すくいが登場する「お祭り」を待たずとも、1年中金魚で溢れている街がある。電気屋さんの電子レンジのなかやテレビ、自販機、改札機など、街角のいたるところに金魚が泳ぐ奈良県大和郡山市だ。
通称「金魚神社」や「金魚観音」をはじめ、マンホールの蓋にも街路にも、金魚モチーフで溢れている大和郡山市内。なかには、大和郡山商工会が中心となり、金色に輝く「幸福の金魚」モニュメントが制作されるほど、金魚愛に溢れた街だ。
まさに金魚好きにはたまらない、金魚ワンダーランドな「大和郡山市」。なぜ、こんなにも金魚だらけなのか?そしてどれくらい金魚三昧できるのか? 市の「金魚マイスター養成塾事務局」が発行し、観光案内所などで入手できる『金魚を見る知る学ぶ楽しむマップ』を手に、街歩き取材を敢行した。
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「中野電気店」
一見、普通の電気屋さんと思いきや・・・、こちらでは電子レンジや電気なべに金魚が泳いでいる。また、巨大金魚鉢? と思ったら電気屋さんらしく、街灯用ガラスカバーが金魚鉢に! すべてご主人の考案。
「幸福(しあわせ)の金魚モニュメント」
郡山城・初代藩主をまつる「柳澤神社」で、お清めの儀も執りおこなわれた赤膚焼のモニュメント。古来より金魚は風水的に縁起が良いものとされている事から、展示されている「大和郡山市商工会館」の女性職員さんも「ぜひ、触って下さい」とオススメするパワースポットだ。
「金魚鑑賞魚藍観音像(金魚観音)」
「郡山金魚資料館」が併設されている「やまと錦魚園」敷地内に、金魚や錦鯉など愛玩小動物慰霊のため1981年に建立された。手の上の青い金魚は人間界に幸を祈願したものだという。
「日本一の販売生産量にもなった大和郡山市」
ふらりと回るだけでも、これだけたくさん目に付く金魚たち。なぜここまで金魚推しなのか? 市の地域振興課・山地晋さんと農業水産課・宮本和幸さんにお話を伺った。
──「平和のシンボル、金魚が泳ぐ城下町」という市のキャッチコピー通り、金魚が泳ぎまくっていますが、なぜ金魚なのですか?
山地さん「江戸時代(1724年)、柳澤家が甲斐の国から大和郡山へ入部したときに、金魚養殖の技術を持ってきたと伝えられています。幕末に武士の副業として、明治以降は地形の利もあって金魚池が沢山つくられ、盛んに養殖されてきた歴史があるからです。なぜ、ここまで金魚養殖が盛んかというと、水質と気候が(金魚養殖に)良かったからなんですよ」
──養殖といえば、金魚の生産量も日本で1~2位を争うほどだそうですね?
宮本さん「2017年のデータで、年間5515万7千尾も販売されています。金魚すくい用の品種・和金の販売生産が圧倒的で、日本有数と言えると思います。すべての市町村さんの生産量を把握している訳では無いのですが、過去にニュースで日本一の販売生産量と記載された事もありますよ」
──金魚すくいと言えば、今年から市が主催の『全国金魚すいくい選手権大会』が『世界大会』に格上げになったとか?
山地さん「そうなんです、優勝したら世界一になれます」
──これだけ金魚が街を侵略していますが、街中に金魚が泳ぎ出したのはいつ頃からですか?
山地さん「せっかく観光に来ても(金魚の街なのに)金魚があまり居ないという事で、地元・柳町商店街の方々の主導で5~6年前から始まりました。そこで市も協力して2016年に『全国金魚のお部屋・おうちデザインコンテスト』を開催し、屋内・屋外最優秀賞、特別賞受賞者の作品を展示しています。地元商店街さんがさまざまなアイデアを出して、市も一緒になってという感じです」
ずっと昔から、城下町の養殖池で金魚達が泳ぎまくっていた大和郡山。今では商店街店主や観光協会職員が自ら考案し、街におもしろ金魚水槽が増殖しているのだという。
「金魚愛あふれる、金魚ストリート・柳町商店街」
大和郡山市のなかでも特に金魚ストリートと化し、SNSを中心に話題を集めている「柳町商店街」(近鉄郡山駅から徒歩3分)。店頭やショーウィンドウなど、商店街のあちこちで泳ぐ金魚を探しながら散策すると、多くの出会いに溢れている。
人気スポットのひとつ、巨大水槽「金魚箱」の金魚を眺めながら店主・森和也さんが焙煎したおいしいコーヒーを味わえる「K COFFEE」。森さんは、「本当に金魚が好きという人が落ち着くと言って来てくれる」とやさしく迎えてくれる。
また、金魚カフェ「柳楽屋」は、入り口横の「金魚自販機」と「きんぎょソーダ」が人気。金魚愛が深い店主・青山さおりさんが「金魚に元気を貰いに来て、非日常空間を味わって欲しい」と、店内は金魚だらけ。金魚愛が深まるにつれて、店内と「きんぎょメニュー」は、どんどん進化中だという。
店内の水槽席で食事をしている女性2人に声を掛けてみると、『全国金魚すくい選手権大会』の元チャンピオン畠さんと第3位の小谷さんだった。お2人は、カフェ近くにある金魚すくい道場「おみやげ処 こちくや」で、8月の大会にむけ、金魚すくいの練習をした後に立ち寄ったという。
「私たち2人が出会ったのも金魚すくいなので、金魚が繋ぐ縁ですね」(畠さん)、「金魚すくいを誰でも体験できて楽しい。しかも金魚を見られるし、さらに食事がおいしい。田舎だけど結構穴場なところが多いですよ。川のなかにも金魚がおったりとか」と、金魚の街の魅力を話してくれた。
実際に市内を散策してみて、
・街中や養殖池で金魚を探して「見る」
・金魚の美術工芸や珍スポを「知る」
・金魚の歴史を「学ぶ」
・金魚すくいやきんぎょメニューを味わい「楽しむ」
と、まさに金魚マイスター養成塾の地図が謳うディープな金魚三昧を堪能。しかも、たまたま声を掛けた方が金魚すくいの元・チャンピオンと3位なのだから、「金魚が繋ぐ縁」も実体験できた。大和郡山市は、商店街や人々の深い金魚愛と、江戸時代からの金魚養殖という歴史・文化に裏付けされた、味わい深い金魚ワンダーランドだったのだ。ぜひこの夏、金魚が泳ぐ摩訶不思議な大和郡山を探訪してみてほしい。
取材・文・写真/いずみゆか
(Lmaga.jp)