2019年・上半期を振りかえる、評論家鼎談【邦画・勝手にベスト3】
すでにLmaga.jpの恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々の映画メディアで活躍し、本サイトの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2019年・上半期公開の、日本映画ベスト3を厳選した。
「今年の上半期は恋愛映画が大豊作」(田辺)
田辺「2018年の上半期の鼎談で、成田凌の配役がちょっと一辺倒ではないかという話をしていたのを覚えてます?」
斉藤「そやったね。でも今年はその問題は解消しつつあるよね」
田辺「そうなんですよ。パンキッシュなバカ役はイメージに合い過ぎてイマイチに見えるけど、やさしいバカってのはめちゃくちゃいいんですよ」
斉藤「今泉力哉監督のの話やね」
春岡「『愛がなんだ』の成田凌は、抜群にハマッてたよな」
田辺「そうです。あと、塩田明彦監督の『さよならくちびる』もそうでしたし」
斉藤「今度は、関ジャニ∞の大倉忠義くんとゲイの役やろ? 行定勲監督の(2020年公開予定)で」
田辺「そうですよね。どんな役でもいけるんですよね」
斉藤「成田くんをキャスティングした映画関係者に聞いたら、『やっぱり成田凌は上手い!』って。今泉監督も行定監督もそうだって」
春岡「あんまり個性がないように見えて、実はちゃんと自分のカラーが出てるから上手いんだろうな」
田辺「『さよならくちびる』で小松菜奈が初めて成田と会ったときに、『そんなに2枚目じゃないじゃん』みたいなことを言うんですけど、その瞬間から2枚目に見えなくなってくるっていう不思議な魅力があって」
斉藤「こないだ、今泉監督と話したときは、『成田くんに何を着せようか悩んだ』と。だらしない役やから、そういう服を着せようとデザイナーと選んだんだけど、それはそれで格好よく見えるから『困った』って(笑)」
春岡「まあ、しょうがないよな(笑)。かっこいいもん」
田辺「その『愛がなんだ』もそうでしたけど、今年の上半期は恋愛映画が大豊作でしたね」
斉藤「『愛がなんだ』なんかはさ、こじらせた若い男女の恋愛に見えるかもしれないけど、完全な純愛映画やん。地獄の純愛やけど(笑)。今泉作品としてやってることはこれまでと変わらないのに、彼の最高傑作であることは間違いないよね」
田辺「今泉監督はずっと一方通行の恋愛を撮っている。視線を合わせようとしたらその人は別のところ向いてて、戻したらこっちにまた戻ってきて、とか。今泉監督本人も言っていたけど、やってることはずっと一緒ですね」
斉藤「角田光代の小説が原作ではあるんやけど、今泉さんが全部書いたようなセリフやったよな。原作との幸福な出会いって感じ」
田辺「Lmaga.jpでをしたとき、マモちゃん(成田凌)がテルコ(岸井ゆきの)の家にきて、うどんを作るシーンがあるんですけど、今泉監督が思ってもみなかった場所に座ったという」
春岡「ああ、そういうシーンあったね」
田辺「今泉監督は、ここはテルコの家だから、マモちゃんをどこに座らせるかめっちゃ考えたらしいんですけど、『成田くんどうしたらいい?』って聞いたら『ここじゃないですか?』って、めちゃくちゃ近くに座って。あの思いがけない距離感は面白かった」
斉藤「確かに、あそこに座ったらテルコの顔を見なくて済むっていうね」
田辺「公開されてから、ずっと上映館は増え続けてますし。今泉監督は、自主映画界隈では『天才』とか『敵にまわしたくない』と言われるほどの実力の持ち主でしたが、ついに大ブレイクですね」
斉藤「あとは、山戸結希監督の最新作」
「山戸結希監督は大林化してるとは思う」(斉藤)
田辺「いやあ、スゴかったですね。ストーリーは謎な展開も一部あったけど、映画として面白かった」
斉藤「そのへんは、原作がそうなってるから、って感じやったな。だって、なぜそうなるのかまともに考えるとわからんシーンが結構あるし。でもそんなのどうでもいいという気にさせる圧倒的な推進力がある」
田辺「ただ、勢いで持ってかれましたね。あの言葉数と速度は、山戸監督の真骨頂だし」
春岡「大林宣彦監督みたいなスピード感になってるんじゃないの?」
斉藤「たしかに、山戸監督は大林化してるとは思う。(山戸監督がプロデュース・企画した)『21世紀の女の子』も完全に大林ぽかったし。いや、それは全然いいのよ。だって大林映画って真似しようと思っても絶対に無理なんだし、それは精神的・詩的に似たものがあるんだと思う」
田辺「ホント、素晴らしいですよ」
斉藤「あのアパートの造形とか驚いたよな。どこで見つけてきたんやって。その造形に惚れ込んで、ガンガン建物を映しこんでまるで主役級」
春岡「そういえば、故・黒川紀章が提唱してた建築運動(メタボリズム)があったよな。カプセル型の集合住宅とか(中銀カプセルタワービル)、ああいった建築を思わせる集合住宅だったな」
田辺「その建物を使って、ものすごい無理のある角度からふたりをしゃべらせるという(笑)」
春岡「鈴木清順監督みたいな」
斉藤「清順さんは、高低差大好きで、不自然なくらいの上と下で、高低差で会話させるけど、山戸作品にもよくあるね。山戸映画は言葉も磨かれてるのが魅力だけど、やっぱり画に運動性があるのよ」
春岡「山戸監督はいま、撮る度にうまくなっている。好き嫌いでいえば、前作『溺れるナイフ』(2016年)の方が好きだけど、作品のクオリティは高くなってる」
田辺「あと、やっぱり編集のスピードがすごい。リズム感が抜群に気持ちいい」
斉藤「最後のシーンなんてまさにそうやけど、ジャン=リュック・ゴダール的な映像と音の音楽的なコラボレーションで盛り上げるのは圧巻よね。セリフの間も編集して」
田辺「あと、解散ツアーで全国を巡る音楽デュオ・ハルレオと、ローディー・志摩との三角関係を描いた塩田明彦監督のも素晴らしかった」
斉藤「音楽映画としても、ちゃんとした作りになってるよね。やっぱり、主演の2人が歌う曲に、秦基博とあいみょんを連れてきたのは大正解。僕の趣味かどうかはともかく(笑)、リアリティがある。と同時に、ロードムービーとしても成立しているしね。塩田監督の『カナリア』(2005年)を思い出した」
田辺「完全にバンドのツアードキュメンタリー映画ですよね。テロップの出し方とか。ライブハウスのとかもそうやし」
斉藤「それに、門脇麦が演じるハルのレズビアン的な性向、その扱い方が非常に慎ましやかで、でも、はっきりと分かるという。さすがうまいよね。塩田監督は、サラッとそういうことができる」
春岡「で、ここでもやっぱり成田凌が良い仕事してるんだよね」
田辺「そうなんですよね。ちゃんと3人の関係性をつないで、小松菜奈に迫られて一瞬グラッときそうやけど、いやダメだから!って拒否したりして(笑)」
春岡「それやっちゃったら、関係性が壊れるから。でも関係がどうこうじゃなくてあいつは実は門脇が好きなんだから、やりたいけどやっちゃダメ、って言い聞かしてる」
田辺「僕、あそこが好きなんですよ。ホームレスに肩をもまれるシーン」
春岡「あれ、スゴいよなー! あれを入れる塩田監督はさすがだわ」
田辺「ホステスがもまれてて、で、もう一度振りかえったら、小松がもまれてるっていうね。あそこのシーンがあるとないとでは全然違いますからね」
斉藤「『さよならくちびる』もちゃんと恋愛映画になってるんですよね」
春岡「恋愛映画の基本だよ、三角関係というのは」
「この映画は、物書きの音楽に対する嫉妬」(春岡)
斉藤「あと、最高に強烈なのが、穐山茉由監督の!」
田辺「上半期のインディーズ映画のなかで、最大の驚きでした。物語の運び方が抜群です」
斉藤「穐山監督はケイト・スペード ジャパンの社員で、PRマネージャーしてるねん。で、30代になって、映画美学校に通って、今回が初の長編映画。『MOOSIC LAB 2018』でグランプリを獲って、社員をしながら映画を撮ったという」
春岡「へぇ、面白いね。『月極』ってことは、ブランド品をシェアするような話?」
斉藤「いや、レンタル友だちの話。レンタル彼氏とかあるやん。男女は友だちのままで関係を続けられるかという、まさにラブコメディ的命題そのものを扱ってるんだけど」
田辺「役者の演出もお見事でした」
斉藤「主演は徳永えり。やっぱりさすが上手い! 昔から力はあったけど、『わろてんか』でいい役(トキ)やって、30歳を超えてから大活躍よね。また相手役の橋本淳がいいのよ」
春岡「橋本って、劇団☆新感線の?」
斉藤「違う、違う。橋本じゅんじゃない。舞台の出演は多いけど、橋本淳はこれで映像でも完全に売れるでしょ。アラサーの編集者・望月那沙を演じるのが徳永で、レンタル友だち業をやっている柳瀬草太役が橋本。で、那沙の女ともだち・小野珠希に、芦那すみれ。芦那って、シンガーソングライターのBOMIやねんな。俺、一緒にトークショーやったのに、知らんかった」
田辺「そうそう。芦那すみれって、BOMIと同一人物なんです」
斉藤「で、シンガーソングライターの珠希が、音楽を通じて柳瀬と距離を縮めていくのを見た那沙が、2人の仲を嫉妬するのよ。柳瀬とは友だちのはずなのに。と同時に、ネットマガジン編集者の那沙は、レンタル友だちとの関係性をルポにしている」
春岡「あぁ、なるほど」
斉藤「那沙は、自分を表現するためにどうしたらいいか、言葉をどう操ったらいいか、を考えているという」
春岡「それ、突き詰めると、表現としてモノを書くより、という話だよな」
斉藤「そう、物書きとしてのジレンマがあるわけ。音楽って、いきなりセッションするじゃない。でも、言葉はそういうことはできない。つまり、『MOOSIC LAB』が目指している、音楽×映画の実験室という・・・」
春岡「それこそ、『MOOSIC LAB』の最大の意味だもんな。この映画は、物書きの音楽に対する嫉妬だよ。物書きの人間は、どうあっても音楽には敵わないもん。またそれを恋愛絡みで描いていて、自分の気になってる人が、音楽で軽く持ってかれちゃったりした日には、すげえ立場ないよな」
斉藤「色彩と空間の使い方が素晴らしくて。けっこう突き詰めた真面目な話ではあるんだけど、空の抜け感が爽やかで。ラブコメディの枠から外れそうで外れない、ということを分かってやっている。1作目でこれって末恐ろしいな」
春岡「大人だよなぁ、やっぱり。ちゃんと社会人として、広報の仕事もやってるという意味が、そういうところで出るよな。机上で映画の勉強をしました、とは違う強さがある。本人は映画監督志望なんだよね?」
斉藤「いや、もう映画監督になっちゃった、完全に。だって、誰よりも映画監督やもん、こんなん撮っちゃったら。一昨年、『MOOSIC LAB』でグランプリ獲った岩切一空監督の『聖なるもの』も僕らは絶賛したけど、『月極オトコトモダチ』はメジャー感がスゴい。その差は大きい」
「人の死で感動したの、久しぶりでした」(田辺)
田辺「僕はあと、阪本順治監督のを推したいです」
春岡「あれは良かった!」
田辺「ですよね! ほかに誰もトップに挙げないなら、自分が1位に推したいくらいなんですけど」
斉藤「僕的にはそこまでじゃないけど、近年の阪本作品・・・どころか今まででナンバー1じゃないかな」
田辺「主人公がほとんどなにもしない、動かない、そして文字通り、最後は動かなくなる。人の死で感動したの、久しぶりでした。なにもしない主人公を稲垣吾郎がうまく演じているんですよ」
斉藤「キャストは少数なんやけど、全員ばっちりハマってて。池脇千鶴がやっぱりうまいのよ」
田辺「あと、主人公の自宅に同級生役の渋川清彦が押しかけて来て、昔話をしようとするんだけど、稲垣が『ごめん、今からセックスなんだ』ってのがまた最高で(笑)」
春岡「稲垣と池脇がやろうとしてるところに、ピンポーンってインターホンが鳴って、渋川がやってくるっていう(笑)。『早く帰れよ』とか言って、『いや、これからセックスなんだよ』、『あっ、それは申し訳ない』って。そんなこと言われるかってのもあるけどさ(笑)」
田辺「あと、自衛隊員として海外派遣から帰ってきた長谷川博己の格闘シーンも素晴らしくて。ヤクザ的な奴らの腕を折るっていう」
斉藤「長谷川さんにインタビューしたとき、そのシーンの話をしてさ。村川透監督の松田優作主演映画『野獣死すべし』(1980年)を思い浮かべたって言ったら、長谷川さんがすごい喜んでた」
春岡「えー、そうなの? 長谷川って、優作ファンなの?」
斉藤「どうやらそうらしい。まあ、どっちもPTSDの話やし、いきなり凶暴性が目覚めるところが。帰還した自衛隊員にも話をいっぱい聞いたと」
春岡「なにかのきっかけで、自分にはわからなくても体が動いちゃうっていう。あれは見事だったよね。でも、それで松田優作を思い出したって言ったら、長谷川は喜んだ。いい話じゃないか」
斉藤「でも最後のシーンの、バスに乗ったときの『ここが全部の世界じゃないんだ』ってセリフはいらんと思うけどね。長谷川さんも無い方がいいんじゃないですか、と監督に言ったらしいけど」
春岡「プロデューサーの椎井友紀子さんがやれって言ったんじゃない? あれは映画を観たら分かるわけだから。わざわざセリフで分からせるようじゃダメなわけだから」
田辺「とはいえ、僕は久々に阪本順治監督の作品にグッときましたね」
斉藤「あとは、ゴリこと照屋年之監督の。まあ、この映画は3月にたっぷりやったから、そっちを読んでもらうとして」
春岡「監督を交えて、5時間しゃべったからね。とりあえず、ここでも良かったことは言っておかないと」
「今年いちばん『映画的な映画』やった」(斉藤)
斉藤「今年を代表することになる・・・くらいの格をもった映画ではあるよね。あと、強烈やったのが、湯浅政明監督のアニメーション映画。もうね、大恋愛映画!」
田辺「川栄李奈とGENERATIONSの片寄涼太が出てますよね」
斉藤「そう。あれも半音楽映画になってて、片寄くんがボイスをやってるから、GENERATIONSの主題歌でとにかく押していくわけよ。主人公の2人が出会って、恋愛が芽生えて、恋人同士になるまでの流れを、ふたりがボイスオーバーで笑いながらその曲を歌い合うなかで見せていくのね。これがもう幸せすぎて泣けてくる」
田辺「かなりの数のエピソードをぶち込んでましたね。膨大なハイライトシーンの波(笑)」
斉藤「そしたら彼が急に死んじゃうのよ。で、彼女は廃人みたいになってしまって。そういうところもアニメーションやのに延々と描くわけ。彼女がもう海さえ見たくなくなって引っ越した部屋の隅で自分の足指をうじうじうじうじ絡め逢うのを延々と。そのあたりから、湯浅監督ならではのデフォルメされた体の動きが爆発するのよ」
田辺「そうそう。イルカの浮き輪を連れて街を歩くところなんて・・・」
斉藤「大泣きしたもん! 途中から俺、滂沱の涙(ぼうだのなみだ:涙がとめどなく流れるさま)。何回泣いたかってくらい。湯浅作品が素晴らしいのは昔から分かってるけど、2017年の『夜明け告げるルーのうた』がアヌシー(仏・アヌシー国際アニメーション映画祭 長編部門)で最高賞を獲ってから、さらに世界観が広がった感じがする」
田辺「死んだ彼氏が水のあるところに現れるわけですけど、水を使った表現というのはアニメーションならではで、『ルーのうた』でもそうでしたけど、湯浅監督はそこが上手いですよね」
春岡「水というのは、生と死の両方のメタファーだからさ。水のなかに死んだ人間が現れるなんてアニメーションでしかできないし、面白いじゃん。あと、トイレの便器のなかに彼氏が現れるのも面白かった。そうか、ここでもいいんだって」
斉藤「そうそう、水のあるところ。おかしなパースペクティブ(遠近法)をいっぱい使ってるけど、そこはもう湯浅監督だから。ラブストーリーの定型は崩さず、アニメーションならではの表現も秀逸。ただ、試写室を出たとき、どっかの代理店の人らが『GENERATIONSのプロモーション映画みたいだった』とか言ってて・・・」
田辺「わぁ、それはヒドイですね。確かに主題歌は何度も流れてましたけど」
斉藤「『どこを見てるんや、お前らは!』って説教してしまった(苦笑)。正直、この主題歌って大した曲じゃないけれど(笑)、俺は今年いちばん『映画的な映画』やったと思う。語り口もうまいし、(湯浅監督が代表をつとめる)アニメ制作会社『サイエンスSARU』のシステムがスゴいから。あそこのフラッシュアニメって、ネットに数多あるそれとはレベルが違う」
田辺「まったく別モノですよね」
斉藤「去年の1月にはNetflixオリジナルアニメがAbemaTVで配信されるし」
春岡「完全に躁状態じゃん。体壊さなければいいけどね」
「狂騒的ではあるけどクール、かなり独創」(斉藤)
田辺「で、アニメーション映画といえば、『天元突破グレンラガン』『キルラキル』でタッグを組んだ今石洋之・中島かずきによるも外せないですね」
斉藤「も含め、今夏の東宝アニメーションのクオリティは恐ろしいね。まあ、作ってるのが(アニメ制作会社の)トリガーやから。『プロメア』は劇団☆新感線度数が上がりまくってる」
春岡「まあ、(劇団☆新感線の座付作家である)中島かずきだからな」
斉藤「ほとんど抽象。火と氷が戦うんだけど、火はすべて三角で、水は四角。パワードスーツ着た火消しと、炎を操る人種・バーニッシュが戦う物語なんだけど、スクリーン上ではほとんど三角と四角の戦闘という」
田辺「それをやれる勇気って、よく考えるとスゴいですよね」
斉藤「また、司政官役の堺雅人の上がり具合がすごいのよ。最初は穏やかな人物なんだけど、段々悪人になっていくのよね。ぐおおおおおって上がっていって、最後は喉がちぎれるくらいに叫んでるからね。声がひっくり返りまくってもお構いなしに」
春岡「やってて楽しそうだよな(笑)」
斉藤「で、主人公の火消し・ガロ役の松山ケンイチは、終始ハイテンションで。そういや、『きみと、波にのれたら』の彼氏も、消防士やったな」
田辺「外国映画では『スパイダーマン:スパイダーバース』に度肝抜かれましたけど、今年の上半期はアニメーション映画が豊富でしたね」
斉藤「あと、あれ観た? 長久允監督の」
田辺「個人的な好みではなかったんですけど、お話はめちゃくちゃ面白かったです。ずっとRPGのゲーム音楽が流れていて、少年少女がサバイバルしていく」
斉藤「あの監督、ちょっとスゴいと思った。何者!?って」
田辺「電通マンですよね。ずっと電通でCMプランナーをやってて、2017年の短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』(監督&脚本)で、『サンダンス映画祭』のショートフィルム部門でグランプリを獲ったんですよ。それもまた非常にいい!」
斉藤「やっぱり脚本も書けるのがいいよね。皮肉が効いてるし、いちいち醒めてて、決して盛り上げようなんてしない」
田辺「そうそう。こうしたら、人って盛り上がるんでしょ、みたいなことを見透かしている感じとか。物語としては、両親を亡くしたけど泣けなかった4人の13歳が、ココロを取り戻すためにバンドを組む、というものなんですけど」
春岡「で、その子どもたちが歌ったらすごいってことで、池松壮亮ら大人たちが儲けようと集まってくるわけだけど、4人はそんならそんでいいじゃん、っていう。最後まで同じテンションで、まったく熱さがない。あれはちょっとビックリした」
斉藤「混沌としてんねんけども、映画的にはわりとカッティングが速くて、いろんなものが詰め込まれている。狂騒的ではあるけどクールだし、かなり独創やと思う。似た映画がありそうでない」
田辺「好き嫌いは別にして、新しい映画への挑戦はめちゃくちゃ感じました」
春岡「そうなの、長久監督ってそんな意欲的な人なの?」
田辺「その意欲は感じますけどね。まあ、僕らみたいなこういう発言を聞いたら、長久監督なんかは『あー、またなんか言ってるわー』って思うかもしれないですけど(笑)。あとは、片山慎三監督のですかね。画質が乾いてて、めちゃくちゃかっこいい。特にあの地を這うようなカメラワークは壮絶でした」
斉藤「物語はめちゃくちゃ重たいんだけど、そう感じさせないのはキャメラワークとあの主演のふたりよ。松浦祐也と和田光沙。徹底的にコメディにしてるよね」
田辺「海辺のシーンで、カメラががーっとひいて動くじゃないですか。あれ、ものすごい下から行ってるんですよ。唐突にすさまじいことをやってくるんで、一瞬わけわからないんですよ(笑)」
春岡「(アスファルトを掘り返すほど、極端なローアングルで知られる映画監督)加藤泰ばり?」
斉藤「まあ、加藤泰的ではあるけど、加藤泰はあんな動き方はしない。海辺でただ話し合うシーンなんやけど、意味もなくキャメラがどんどん高速で引いていくっていう。あれは、キャメラマンがやりたいと言ったんだって。やっぱりポン・ジュノ監督の影響は強く受けていると思うよ。『母なる証明』とかさ。まあ実際、助監督やってたわけやし」
田辺「そうですね。あの冒頭の雨に濡れて外にでてくるシーンとか」
「あの女子高生コンビがめちゃくちゃ面白い」(春岡)
春岡「それに、アナーキーだった頃のロマンポルノでやってたようなネタがいっぱいあるのがいいよな。障がいのある妹を買った客のとこに行って、『嫁にもらってくれ』とか」
田辺「その妹がこびとに抱かれたあと、『あれ、こびと? こびと、ちんちんオトナ』って。あのセリフは強烈でした。自主映画でも今はストップがかかってしまうところ」
春岡「兄貴が、『そんなこと言っちゃダメ』とか言うんだよな(笑)」
斉藤「そのこびと役を、映画監督の中村祐太郎くんがやってるんだよ」
春岡「素晴らしいなー。絶対好きじゃん、そんな役」
斉藤「やっぱり強烈。日本映画は上半期だけでスゴいよ」
田辺「アグレッシブな作品がとにかく多かったですね。それこそ『洗骨』を含めて、『死』を扱った作品も良作揃いで」
斉藤「あと、みなさんご存じの通り、僕は石井裕也作品というのはあまり好きじゃないんだけど(笑)、は案外よかった」
田辺「ついにミルクマンさんが石井裕也作品を! あれは僕、ミルクマンさんは絶対評価すると思ってました(笑)」
斉藤「吉高洋平役の池松壮亮に、前作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の続編的役をやらせたのが良かったよな」
田辺「皮肉映画やから、そういうのできますよね。自分を道化にできるっていう」
春岡「俺は石井裕也監督としては、『川の底からこんにちは』(2009年)がベストなんだけど、今回のラストシーンの風船で飛んでいくのが面白かった。インタビューしたとき、あれは『ドン・ガバチョ』のオマージュなんだって。いいじゃん、メリー・ポピンズとかじゃなくて、ドン・ガバチョってのがさ」
田辺「いやぁ、石井裕也監督ってやっぱり面白いですよ。いつまでもトンがってるお人柄、大好きです」
春岡「あと、前田敦子と日比美思(ひび・みこと)、あの女子高生コンビがめちゃくちゃ面白いじゃん。『唐揚げ棒食ってる場合じゃねえな!』なんて、最高だよ」
斉藤「面白いよね、原作を読んでみたくなったもん。石井裕也監督は、少女コミック原作とか合ってる気がする」
田辺「そうなると、上半期の日本映画ベスト3はどうなりそうですかね?」
斉藤「僕は『愛がなんだ』『月極オトコトモダチ』、そして『きみと、波にのれたら』やな」
田辺「『愛がなんだ』は間違いなく入りますし、あと、『さよならくちびる』、『半世界』、『岬の兄弟』も気になるところですね。あと、ガレッジセール・ゴリこと、照屋年之監督の『洗骨』ですね」
斉藤「うんうん、『洗骨』は入れるべきかな。今年の年間ベストとして考えてもかなり秀逸」
春岡「いやぁ、『洗骨』はホントに面白かった」
斉藤「あと、工藤梨穂監督のもいいのよ。レオス・カラックス監督の『汚れた血』(1988年)のようなSF作品。主演のドニ・ラヴァンが暴れるところをそのままやってたりしてて」
田辺「『ウィーアーリトルゾンビーズ』も入れておきたいですね」
春岡「たしかに、あれも抜群に面白かった」
田辺「じゃあ、我々の2019年上半期・日本映画ベスト3は、『愛がなんだ』、『洗骨』、『ウィーアーリトルゾンビーズ』ということで」
斉藤「いいね。今年の日本映画はかなりスゴいよ。この調子でいくと、年間ベスト10が絞れへんくらい秀作揃いやから」
(Lmaga.jp)
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