映画『見えない目撃者』で主演、吉岡里帆「見えない設定だからこそ慎重に」

ある車の接触事故に遭遇し、車中から助けを求める少女の声を聞いた目が見えない元警察官の女性・浜中なつめ。しかし警察は、彼女の証言では動こうとしない。元警察官だったなつめは少女を救うべく、現場にいたもうひとりの目撃者の高校生・国崎春馬(高杉真宙)とともに捜査を開始。すると、身の毛もよだつ連続猟奇殺人が露わになる・・・。サスペンススリラーとして珠玉の作品となったこの映画について、主演の吉岡里帆に話を訊いた。

写真/木村正史

「事前準備を大事にしたいタイプなので」(吉岡里帆)

──9月20日公開にされた『見えない目撃者』。大変面白く、そして興味深く拝見させていただきました。

ホントですか、ありがとうございます。

──オファーを受けたときはどんな思いでした? 原作は韓国の映画ですが。

原作にある設定や境遇は同じなんですけど、日本でリメイクする意味のある、日本らしい闇の部分だったり、現在の若者の問題提起だったり、テーマがより新しく作り変えられている感じがして。まったく新しいものとしてこの役をやろう、という気持ちでした。

──たしかに、原作と比べてみると、日本が抱えている問題をバックボーンに、日本で撮る意味がものすごく練られた脚本で。まったく別物として観られる面白さになってました。

ホント、そうですね。日本の宗教観も盛り込まれていて。高杉真宙さんが演じた春馬役からも、SNSの時代になって、若い子たちが自分自身がどこにいるのかわからないとか、いろいろ深読みすることもできて、ただ怖いだけじゃない、サスペンススリラーだなと思いました。

──吉岡さん自身、ここ何年かすごく出ずっぱりな状態で、いろんな作品で拝見させていただいてるんですけど、吉岡さんの「目」というのは、女優・吉岡里帆にとってすごく大きな強みだと思っていて。それこそ、『イルカ少女ダ、私は』(2014年)もそうでしたし・・・。

えっ、そんな前の作品まで(笑)。ありがとうございます。

──ドラマ『カルテット』(2017年)もインパクトありましたし。そんななか、今回は盲目の主人公で、強みである「目」をとられた演技を求められたわけですが、そのあたりはどうでした?

目が見えない設定だからこそ、お客さんは「目」を見ると思うので、普段演じるよりも慎重に慎重に、 森淳一監督やカメラマンさんと話し合いながら撮りました。クランクイン前にカメラテストがあったんですけれども、実際に視覚障害を持っている3名の方に取材をさせていただきました。

──そのときはどんなお話を?

先天性の方だと、どういう風にモノとか色とかを捉えているのか。また、後天性の方だと、目が見えなくなってから、どういう風に景色が変わったのかなど、みなさん丁寧に教えてくださいました。実際、お話をうかがっているうちに、だんだん映像化されていくような感覚があって。自分の想像だけでは、こういう仕上がりにはならなかったと思います。

──森監督とはどうでしたか?

森監督からは、「もっとこう、相手に対してちゃんと瞳が体を向いている方がキャラクターとして魅力的なんじゃないか?」って意見をもらったり、カメラマンさんからは「お客さんが目だけに注目せずに、ストーリーとしてその要素を取り込んでくれるように見せるにはどうしたらいいか」とか、いろんな意見交換をしました。

──今回は主演作ですが、普段からそういった緻密な打ち合わせは、監督さん含めて、スタッフの方とされているんですか?

そうですね。私は事前準備を大事にしたいタイプなので、クランクイン前にいろいろ話し合ったり、どういう風に撮っていくのかという打ち合わせをしています。今回は盲導犬役のパルと走る練習や指示出しの練習もあったので、より長く時間を取っていただきました。そういう時間を作ってくださる現場で良かったなと思いました。

──その上で、目の見えない主人公というだけでなく、今回のなつめ役にはアクションも伴いますよね。おそらく、これまでにない役どころだと思いますが。

そこはちょっと原作の力をお借りしましたね。主人公が目が見えないなかでどういう動きをするのか、どれぐらいの場所から壁を手探って動くのか。なるほど、こうすればそういう風に見えるんだと、勉強になりました。

──今回のなつめは、未来に夢をふくらませる警察官だったのが一転、交通事故を起こして目が見えなくなり、弟まで死なせてしまう。その罪悪感にずっと苛まれ続け、社会から距離を取っていく。その後、猟奇的殺人事件に遭遇したことで、かつての姿を取り戻していくという人間ドラマも軸になってます。

やっぱり、森監督がこれまで撮られてきた映画において、ただ危険な描写や残酷な表現を連続するのではなく、人間の感情を大事に撮ってくださる監督だったので。それに、現場では「思ったようにやっていいよ」って言ってくださったので、なつめという役はもちろん、その人間ドラマについても自分の価値観で脚本を咀嚼して演じることができました。

──なつめは特に、正義感に燃える警察官から、社会の弱者として心を閉ざしてしまう、ジェットコースターのような人生を送っている。

そうですね。冒頭から5分くらいで人生の終わりみたいなのを見せちゃう作品なので。

──結構えげつないですよね。

ですよね。私も台本を読んで、「えっー!もう?」って思いましたもん(笑)。なつめというのは悲しみの淵のギリギリを歩いている主人公だと思うので、そういう思いはずっと意識しながら撮ってました。

「カメラマンさんの言葉に愛情を感じました」(吉岡里帆)

──どこか、その境遇から抜け出したいという思いもありつつ、でも、抜け出せない弱者であるということを同居させた感じでしたね。

そうですね。ジレンマですよね。ずっと葛藤して、葛藤してっていう、すり切れるような思いみたいものは抱えていようと思いましたし、そういう意味で盲導犬・パルの存在というのはなつめにとって大きいので、パルの前と、ほかの人の前での表現は変えようとは決めてました。

──パルとのコンビもそうでしたが、今回は高杉さんとのやり取りが、物語の推進力にもなっています。高杉さんの印象はどうでしたか?

真面目で誠実。なんていうか、2人の間には「同志」って感覚が生まれたと勝手に私は思ってるんですけど(笑)。

──高杉さんとは初めてですよね?

初めてです。この作品を少しでも良くしようという強い意識を共有できた感覚があったので、現場では何でも話せました。なつめを演じる上で悩んでいたことも話せたし、逆に意見も聞いたし。春馬もなつめも社会から孤立した弱者だったので、そういう人物が強く突き進んでいく様は見ていて爽快だし、そこは一緒に頑張りたいと思っていました。

──ネタバレすると映画を観る楽しみががっつり減ってしまうのですごく説明しづらいと思いますが、印象に残っているシーンについて聞かせてください。

印象的だったのは、電車での逃亡劇。1週間くらいかけて撮っていて、とにかくずっと走り続けるんですけど、撮っても撮っても終わらないという感覚がなんとなく現場に漂ってて。

──それはなぜ?

一番スリリングなシーンですし、そこでお客さんにハラハラしてもらうためには、さまざまな効果的なカットが必要で。スタッフさんが「撮っても撮っても終わらないねぇ」ってボソッとおっしゃって、「そうですねぇ」って言いながらみんなでシュークリーム食べて、「もういっちょ!」ってまた撮って。みんなが走ってるので。カメラマンさんも。あのシーンを撮ってるときは、いい現場だなってしみじみ思いました。

──カメラマンは、近年注目作を撮り続けている高木風太さんですよね。

そうです。現場には大阪から通われていたので、お子さんに会いたいとボソッと漏らされていたのが印象的でした(笑)。高木さんは私に対して、「もっと大きく、自由に動いても、ちゃんと撮るから」と言ってくれる方で。「ここの導線はこう動かなきゃいけないとか、スタッフ側のことを気にしてるクセがあるけど、そういうことはしなくていいよ」って言ってくださったのが、すごく、すごくうれしくて。そんなこと初めてだったんです。その言葉に愛情を感じました。

──そこで救われるというか。

もう、めっちゃ救われました!

──だからこそ、スタッフ、キャストが一丸となって作った現場だったという実感が・・・。

いやぁ、ありましたね。それこそクラインクイン2カ月前に取材が始まった時点で、いろんな部署の人たちと一緒に資料映像を見ながら話し合いましたし、本物の盲導犬に会いに行ったときも親身になってくださりました。すごくいい現場でした。

──だからこそ、その思いがスクリーンに如実に表れた『見えない目撃者』。多くの人に観てもらえるといいですね。

ホント、そう願います。

(Lmaga.jp)

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