「カメ止め」の上田慎一郎監督、長編2作目が公開「人間は芝居をして生きている」
低予算で撮ったインディーズ映画『カメラを止めるな!』(2017年先行上映)が異例のロングヒットを記録し、日本映画界に「カメ止め旋風」を巻き起こした上田慎一郎監督。その最新作『スペシャルアクターズ』がいよいよ公開される。売れない役者・和人は数年ぶりに再開した弟から俳優事務所「スペシャルアクターズ」に誘われるが、和人には極限まで緊張してしまうと気絶するという秘密があった・・・。監督・脚本・編集、さらには宣伝プロデューサーまで兼ねる上田監督に、評論家・田辺ユウキが話を訊いた。
取材・文/田辺ユウキ
「現場ではドキュメンタリーを撮っているつもり」(上田監督)
──『スペシャルアクターズ』はワンカットにおける情報量が非常に多い作品ですよね。たとえば冒頭で、主人公・和人が受けるオーディションの作品タイトルが『灯りをともせ!』でしたけど、これは後に、彼が持病治療で訪れるメンタルクリニックの先生のアドバイスにつながってきます。
細かいところをよく観ていらっしゃいますね(笑)。実は初稿の段階では、そのオーディションの作品タイトルも全然違ったんです。ただ、映画の方向性が見えてきて、そして自分のなかでテーマを集約していき、そういった作品タイトルなど細かい部分と主人公の境遇をリンクさせていきました。
──和人が所属する俳優事務所「スペシャルアクターズ」に貼ってあるポスターも、『初恋を守りたい』『SAVE ME』といったタイトルの作品で。これも、「誰かを救う」という物語のテーマに直結します。「スペアク」を解き明かすヒントが、背景にもいろいろあります。
ポスターの作品タイトルに関しては、すべて、「レスキュー」「守る」「救う」という感じにして欲しいと言いました。
──「スペアク」の俳優たちは、たとえば「好きな女の子の前で良いところを見せたい」という依頼主のために、チンピラを演じて依頼主にわざと撃退されるなど、芝居をうつことで誰かをサポートする。あと、登場するカルト集団も「人を救う」をいう名目で胡散臭い宗教活動をしています。
もともとは、日常生活のなかで演技をしている人の姿に興味があって、それをめぐるエンタテインメントを作ろうとしていたんです。そして脚本を書いている段階で、「救う」という題材が出てきました。
──でも、「スペアク」がやっていることもそうだし、カルト集団もそうですけど、嘘を本当に見せかけて、顧客に信じ込ませるのが仕事。というか、それこそ『カメ止め』もそういう構造でした。上田監督作品は、リアリティとフィクションの関係性を盛り込んでいますよね。
和人を演じた大澤数人くんも、実際に売れない役者なんです。そんな彼が、そのまま売れない役者の役をやる。もしこれが人気俳優であれば、売れない役者をやったときどうなるのか。売れない役者としての芝居はリアルに見えるかもしれない。でも、その存在自体が果たしてリアルに見えるか、どうか。そこは疑問です。大澤数人くんの場合は、存在自体がリアルに売れない役者ですから。
──なるほど。
僕としては、映画=嘘のなかで「本当のリアル」が顔をのぞかせてほしい。あと、撮影に入るまでは脚本を練りこんでフィクションを固めていくんですけど、現場ではドキュメンタリーを撮っているつもりでやっています。そういう意味でのリアルはやろうと思っています。
「どこかのレイヤーで観客と繋がる瞬間がある」(上田監督)
──『カメ止め』もそうでしたが、上田監督としては、無名俳優を起用する方がその構造にハメやすいのでしょうか?
『アベンジャーズ』のような作品を日本映画の枠で作るのは、難しい気がするんです。みんなが知っている人気俳優がスーツを着て戦っていても、どこか茶番に見えてしまう。でもハリウッド映画は、超莫大な予算をかけて徹底的に世界観を作り込み、フィクションであるはずなのに、「現実」を成立させている。日本映画ではどうしても規模感に制限が出てくるし、『こんなに売れている俳優が、売れない役者?』という意識の方が大きく働きすぎて、僕としてはイメージがつかない。だったらリアルと地続きなものをあえて映画に取り込まないと、という気持ちがあります。
──監督は、芝居演出ではどういうところにポイントを置いていますか?
人間は普段から芝居をして生きている。人や状況に応じて態度も変わりますし。ただカメラが向いたとき、普段と同じようにできるかどうか。できるのが、プロの役者。前作、今作も経験が豊かではない役者が多かったので、リハーサルではのびのびとやっていたのに、大勢のスタッフが見守る本番だといつものその人じゃなくなるときがあった。緊張もあるだろうけど、ちゃんとやろうとしちゃって、その役者の魅力や個性がどこかへいっちゃう。
──そうなると、いかにも演技じみた動作になりますよね。
そうなると良くないから、監督として軌道修正してあげる。演技をうまくやろうとしすぎると、キャラクターでも、演じているその人でも、何者でもなくなってしまうんです。僕としてはまず、セリフを言ってくれるだけでいい。こちらは、のびのびと演技を楽しんでもらえる現場作りをするので。怒鳴るようなスタッフは入れないとか。怖いスタッフがいると現場が萎縮して、役者も芝居が変わってしまうんですよね。
──あまり作り込まないでほしい、ということですか。
そうですね。先ほどのリアリティの話にも通じますが、僕はまずその人本来が持っている魅力を撮りたい。『スペアク』、『カメ止め』のように嘘がいくつも重なっている構造になっている作品に関しては、みんなには『オチに関しては何も考えなくていい』と言っています。
──たしかにあの結末を意識すると、そこに行き着くまでの芝居が嘘くさくなりそうですね。
フランソワ・トリュフォー監督の『アメリカの夜』(1973年)で、劇中に登場する映画監督が猫を撮るシーンがあるのですが、そもそも猫って演出できない。コントロールできないものを撮っている人を、この映画では撮っているという、まさに『カメ止め』に近い構造なんですが。僕は、フィクションではあるけど、でもどこかドキュメントを観ているような、混乱する感覚が好きなんです。たくさんのレイヤーがあるなかで、どこかの層に来たとき、映画館の観客と繋がる瞬間がある。
──上田監督作品というのは、大どんでん返しがクローズアップされるけど、非常に精密な作りになっていますよね。
でも実際、前作も今作も、自分が思いも寄らなかった細かい解釈をたくさん聞くことができています。というか、自分が思ってもいない解釈を聞ける余地を残すように、意識して作っています。
──それができるのはすごい!
主人公の持病に関しても、原因があるんです。で、メンタルクリニックのシーンで示唆するようにしていたんですけど、それを言っちゃうと原因がひとつになるのでカットしました。想像してもらえる余地を作るためです。そうやって、何を残して、何をカットするか。監督としてその選択はいつも迫られますし、そこにやりがいを感じています。
(Lmaga.jp)
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