富野由悠季監督がガンダムを作った理由「ヤマトみたいなものを・・・」
『機動戦士ガンダム』を代表とするアニメーション監督・富野由悠季の業績を回顧する展覧会『富野由悠季の世界』。「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で開催中の同展を訪れた富野監督が、自身のアニメに対する姿勢を話した。
会場の入り口には、戦時中に軍需工場で富野の父親が開発に携わったという与圧服が展示されている。パイロットを守る耐圧服だが、富野は宇宙服に似たその姿を物心つく頃から毎日見ていたという。
「父親の仕事はまったく無縁だと思っていたんですけど、もう一度考えてみると、(その影響で)小学生の高学年になったころから宇宙旅行好きというオタッキーなところにハマっていったんじゃないか」と、改めて気づいたと話す。
そんな少年時代を過ごした富野が、SFアニメの演出をした際に驚いたことがあるという。「中学時代まで宇宙旅行の仕方をいわば研究していた立場から見たときに、ほかのスタッフがなんにも知らないで平気でああいうものを描いているとわかって、本当に腰が抜けるほどビックリしたんです」。
それは、「無重量状態に近いところでの感覚がどういうものかを感覚論としてつかまえているスタッフがひとりもいなかった。宇宙で24時間暮らすことを想像したことがない人たちが、平気で『(宇宙戦艦)ヤマト』みたいなものを作っている。その驚愕の事実に突き当たって・・・。あいつらに作らせてるわけにいかない(笑)、と本気で思って作ったのが『(機動戦士)ガンダム』なんです」と怒りにも似た心境を打ち明けた。
そして、「痛感しているのは、僕は直接的な表現者にはなれない。絵描きでも文筆家でもなかった」と前置きをした富野。
「アニメーションという表現媒体を通してしか表現できない自分の立場を考えたときに、プロダクションワークというものの大切さを感じるとともに、どういう心構えを持たなければいけないか、トップに立つ人はコンセプトを持たなくちゃいけないし、哲学を持ってなくてはいけない。好きだけでは絶対に動画作品は作れない。それは、ここに展示されているものを見ると想像がつくだろう」と、アニメ制作に対する姿勢を話し、同展で垣間見られる自身が作りあげてきた礎を紹介した。
本展兵庫会場は12月22日までで、チケットは一般1400円、大学生1000円、高校生以下無料。順次、島根、青森、富山、静岡を巡回する。
(Lmaga.jp)