まるで雑伎団と自ら笑い飛ばす女性ユニット、弾いて叩きまくるキヨセン
フュージョンバンド・カシオペア3rdのオルガニスト・大高清美と弱冠22歳の天才ドラマー・川口千里。スーパープレイヤーの2人がユニット「KIYO*SEN」(以下キヨセン)を結成して6年、結成時は高校生だった川口が2019年春に大学を卒業し、活動も本格化。この秋、心機一転のニューアルバム『ドラマチカ』を発売した。11月にリリースツアーを控える2人に話を訊いた。
──千里ちゃんは、小学生からプロのステージで活躍され、中学生の頃にはYouTubeでアニメ『けいおん!』主題歌の叩いてみた動画が話題になりましたね。私も当時からよく拝見してました。
川口「これからは見なくて大丈夫です(笑)。もう恥ずかしい・・・」
──いやいや。10代のドラマーにとってはとても勉強になると思って、私はいまだに周りに勧めてますよ。今年、大学を卒業されましたが、社会人になって環境や心境の変化はありますか」
川口「社会人(笑)! 正直全然なくてですね。それこそ社会人と言われてまだ違和感を持つぐらい変化がなくて・・・。しいて言うなら、曜日を気にせずツアーに出られる。大学に通ってたときからかなりスケジュールを詰め込まれてたので、むしろ楽になったかな」
大高「昔は、ライブで暇さえあれば学校の宿題をやったり。レコーディングのときもそうでしたね」
川口「今では新幹線に乗っていても、『レポート書いてないな』みたいな感じ。ちょっとゆっくりできる時間も増えました」
「練習すればマッチョになれると思ってた」川口千里
──あらためて、千里ちゃんの音楽的背景というか、ルーツを伺いたいのですが。
川口「スタートは完全にロックなんですよ。そもそも始めたのが5歳だから、そこまで誰かに憧れるっていうのはなかったんです。ただ小さい頃から好きだったドラマーはイアン・ペイス(ex.ディープ・パープル)。彼が叩くロックがすごい好きで、そこからコージー・パウエル(ex.ホワイトスネイク)を通って・・・。序盤は、かなりロックでした」
大高「22歳でもう序盤(笑)」
川口「ドラム人生17年なんで、序盤(笑)。昔は、練習すればチャド・スミス(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)みたいになれる、マッチョになるんかなと思ってたけど、なれずに終わり・・・」
──手数王として知られる師匠の菅沼孝三さんに師事されたのが8歳ですね。
川口「そこでジャズ・フュージョンのジャンルを教えてもらって、ミシェル・カミロ(p)やチック・コリア(p)などを聴き始めて。ドラマーでいうとデイブ・ウェックルとスティーブ・ガッドと、クリフ・アーモンド。8歳からそっち寄りを聴き始めて今にいたると」
──それだけ幅広いジャンルを知っていると、普段はどんな音楽を聴かれているのですか?
川口「結構何でも聴きます。最近はディスコのベスト盤を聴いていて、昔の名曲アース・ウィンド&ファイアーとか。その前は、マルコ・ミネマン(Dr)さんの入ってるアリストクラッツというプログレ寄りのバンドだとか。ほかにも劇伴が結構アニソン寄りなので、近い年代の友だちに最近のバンドを教えてもらったり・・・。その時々によって毎回違いますね」
「結成のきっかけは、小学6年生で制作したDVD」
──ちなみに、劇伴というのは何でしょうか?
川口「ゲームや映画の後ろで流れている音楽をレコーディングする仕事を劇伴といって、現場でセッティングしてると『本日の譜面です』ってその場で渡されて、だいたい2回目くらいで完成させなきゃいけないんですよ」
──大変そうですね! ほかにもサポートドラマーとしてアーティストのツアーにも出られてますが、若い間からさまざまなお仕事をされてますよね。お2人が出会ったきっかけも仕事のつながりですか?
川口「最初にお会いしたのは、私が小学6年生の頃にDVD『ホロスコープ』を出したんですよ。そこで大高さんのご主人の矢堀孝一さんがギターで参加されていて、リハーサルをするというので、集まったんですけど・・・」
大高「私が『見に行く!』って、ただついて行っただけなんですよ。それが師匠(菅沼孝三)の家で」
──孝三さんとは、以前から一緒に演奏されてますものね。
大高「そう。そこで、ピアノの方とベースの方がリハに来れないっていうことで、「清美ちゃん手を貸して~」って言われて共演したのが最初。そのときはもうほとんど喋らないですよね」
川口「そりゃあ、何だか知らない大人が来た、って感じなんで。それから、私が13歳から東京でライブする企画を始めたときに・・・」
大高「ゲストで出させてもらったんですよね。初めてちゃんと演奏して」
川口「その後、地方で『女子力ユニット』ってふざけた名前でセッションをやって。そこから自然な流れで、じゃあって」
大高「ユニットをやりませんかっていう話があって。ユニット名はどうしましょうかと言って、清美と千里だから『キヨセン』でと安易に(笑)」
大高清美「キヨセンは雑伎団だよね」
──大高さんはカシオペア3rdをはじめ、セッションでも多くの方と共演されています。お2人ともソロ活動やサポートをされてますが、キヨセンってどういう立ち位置なんですか?
大高「これは、雑伎団だよね」
川口「まさに!(笑)」
大高「ミュージシャンとして演奏する現場は当然ですが、楽器に向かったときにどこまで出来るのかって『自分との戦い』というのがありますよね。それがぶつけられるユニット」
川口「私もキヨセンっていうのが一番チャレンジできる場所。ほかのサポートは失敗できない現場が多いので、チャレンジ度っていうのはどうしても下げざるを得ない。でもキヨセンはそういうところを受け入れてくれるメンバーが揃っていて、自分がやりたいことができる」
──自分でやりたいことが出し切れるとなると、ソロ活動も同じかと思うのですが。
川口「そもそも音楽的な方向性が違うんですよ。キヨセンの方がプログレ寄り」
大高「イギリスというか、ヨーロッパ寄りだよね」
川口「キヨセンとソロは、ヨーロッパとアメリカの違いぐらい内容が違うので、私のなかでも挑戦したい要素が違うんですよ。自分のバンドをやるときは、西海岸寄りのサウンドのCDを聴いて演奏するし」
──ソロアルバムは、明るいフュージョン系のサウンドですもんね。
大高「西海岸っていう意味では、ちょっとジャズ性が強い部分もあって、ソロではジャズ寄りのアプローチをやるんだと思うんですね。キヨセンに関してはそれプラス、テクニック技量系。メタルは手数や足数もすごいじゃないですか。そっちも取り入れてもらう形なので、その挑戦も必要ですね」
川口「それでいうと、自分のソロライブよりキヨセンの方が叩いてるし、消耗は激しいです。スティックが1セットダメになるんですが、自分のライブではそこまではいかない。テクニックや力を出す要素が違うっていうのはありますね」
小さな会場でも「問答無用でバーン!って」(川口千里)
──それにしても今回のアルバムのサウンドは、幅広いですよね。激しくて複雑なリズムのプログレはもちろんですけど、なかには繊細なものや歌モノのようにメロディアスな曲も入ってます。キヨセンとして、より幅が広がった気がしました
大高「そう言ってもらえるとうれしいですね。千里は歌モノもやってるし、劇伴もやってるし、タレントさんのバックも、自分のバンドもやってる・・・。ドラマーとして多様な音楽性のなかで仕事をしてるから、いろんなものを受け入れてると思うんですよ」
──アルバムの発売を記念した東名阪ツアーが始まっていますが、ベースに渋谷有希子さん、ギターは矢堀さんですね。
大高「気心知れた、キヨセンには欠かせないメンバーです。今回のアルバムも同じメンバーで収録してるので、今のキヨセンのサウンドっていうのが詰め込まれてる。それを体感しに来てもらいたいなーって感じですよね」
──あまり大きくない会場だと思うのですが、音量が大きすぎたりしませんか?
川口「問答無用で、バーン!って出しちゃう」
大高「苦情が来れば出られないですけど、来てないので大丈夫です(笑)。本当にバスドラの風圧とかね、いろんな風圧を感じられる環境もすごく良いと思うんです」
川口「かなり身近に感じられるので、ちょうどいい距離感ではないですかね」
大阪公演は、11月26日・27日に「Mr.Kelly's」(大阪市北区)にて。チケットは一般5800円、22歳以下3800円(当日は各300円増)で発売中。
(Lmaga.jp)