再開するミニシアター、存在意義のため「方向性は変えたくない」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月9日より休業していた大阪のミニシアター「シネ・ヌーヴォ」(大阪市西区)が6月1日、営業を再開した。
1997年に一般の映画ファンによる出資をもとに開館し、新作だけではなく、往年の名優や名監督らの特集上映で独自色を出してきた「シネ・ヌーヴォ」。53日にわたる休業は初めてのことで、山崎紀子支配人は、「映画のかからない映画館の光景を見て、寂しさがありました。すごく落ち込みました」と休業期間中を振りかえる。
収入がまったくないなかで家賃などの工面に奔走し、関西13劇場が立ち上げた「Save our local cinemas」、深田晃司監督と濱口竜介監督が発起人をつとめた「ミニシアター・エイド基金」に参加し、寄付やグッズ売上による分配金を得て、何とか持ちこたえた。
ただ、それでも休業中に負ったダメージは大きい。また再開しても定員85名のところ、44席のみ稼働させるなど厳しい状況は続く。山崎支配人は今後について「いろいろ切り詰めてやっていかないと厳しい。客足が戻るかどうかも分からないし、果たして年内で回復できるかどうか」と不安を隠しきれない。
ミニシアターはこれまで、大ヒットは見込めなくても、上映することに何らかの意味を持つ作品を受け入れてきた。ただこの瀬戸際の状況で、そういった映画を今後どれだけ受け入れることができるだろうか。
しかし、山崎支配人は、「ミニシアターの存在意義を考えたとき、そういう作品は上映するべきだと思います。小規模な映画であっても、観た人の心にとまった瞬間を今まで何度も目の当たりにしてきました。また、若い映画監督の上映の場としてもミニシアターは必要。映画館として見直すべき点はたくさんあります。でもミニシアターとしての方向性は変えられないし、変えたくない」と力強く語った。
同館再開の日。朝11時の初回上映に一番乗りで駆けつけたのは60代の男性。約10年通っているという同男性は、「映画を観るのが好きだから、映画館がすべて閉まってしまったとき、何をして良いか分からなくなりました。だから、ずっとこの日を待っていました。ヌーヴォの再開初日は絶対に行かなアカンと思い、観に来ました」とマスク越しに笑顔を浮かべた。
また男性は、厳しい状況がつづくミニシアターについて、「自分にとってすごく大切な存在。時間があればミニシアターで過ごしています。なんとか頑張って欲しい」とエールを贈った。
今回のコロナ禍によって、映画界全体で向き合うべき課題が浮き彫りになった感がある。ミニシアター存続のための動きはまだまだ続いていく。
取材・文/田辺ユウキ
(Lmaga.jp)