「鬼滅の刃」世界観、コスプレイヤーに身近なところで楽しむコツを聞いた
映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が興行収入302億円を記録し、社会現象にもなっている『鬼滅の刃』(漫画原作・吾峠呼世晴)。それに伴い、全国に鬼滅の刃の「聖地」と呼ばれる神社や観光地が急増している。
どれも正式にモデルになった場所という訳ではなく、漫画のシーンを再現できそうな石や、登場人物の名前・技に神社名などが似ているところからSNSなどで話題になったスポットだ。
奈良県内にも話題となっている聖地がいくつかあるが、「コスプレをしてもしなくても、あくまで世界観に浸るのが楽しい」と話す、奈良在住のコスプレイヤー・銀とき子さんに、聖地の楽しみ方を教えてもらった。
大の奈良好きが高じて、「奈良まほろば検定1級」保持者でもある銀さん。もともと『鬼滅の刃』だけでなく、自身の好きな漫画やアニメ作品に近い雰囲気のスポットを身近な所で探すことが大好きなのだという。そのため、奈良県内の観光協会や市町村が発信している情報を普段から細かくチェックする。そんな銀さんとコスプレ仲間の撮影会に同行した。
炭治郎が修業中に切った岩に似ている橿原市の月輪石まず訪れたのは「御厨子(みずし)神社」(奈良県橿原市東池尻町)にある「月輪石(つきのわいし)」。炭治郎が兄弟子(錆兎・さびと)との勝負で、師から言われた岩を切る名シーンがあるが、橿原市観光コンシェルジュが似た岩として紹介したことで、銀さんが行ってみようと思った場所だ。
この石は、磐座として信仰の対象である神聖な岩であり、「石析(いわさく)神」という石神様。古事記でイザナギが妻・イザナミの死因となった子の火神カグツチの首を斬ったとき、剣の先についた血が岩について化生した神様だという。また同社は東池尻町が管理しているため、今回は特別に許可を取ってコスプレ撮影会をおこなった。
銀さんの友人で、京都から家族で参加した迦南丸(かなまる)さんは、「コスプレや刀が無くても、(炭治郎の)ポーズを取るだけで気持ちが盛り上がります」と、世界観に浸るコツを伝授。さらなるコツとしては、訪れる直前にもう一度、漫画のそのシーンを読み返すことだという。
また、猪の頭を被った嘴平伊之助(はしびらいのすけ)コスの嵐坊(らんぼう)さんも「カーナビにも出てこない場所なので、訪れるきっかけがあって良かったです。古くからの信仰があったことが分かる土地感を楽しめました」と奈良の歴史も堪能した様子。
無限列車を彷彿とさせるSLと竈の神様をまつる神社へ主人公の苗字である「竈門」と同じことから、福岡県の「宝満宮竈門神社」が聖地として知られているが、寺社が多い奈良県内にもそれと似た神社がある。銀さんがツイッターで知ったという北葛城郡王寺町にある「久度神社(くどじんじゃ)」だ。御祭神の「久度大神」は、竈の神で火の元の神様。古くから竈のことを「おくどさん」と呼ぶが、その「くど」の意味だ。
「創建は奈良時代より古く、歴代皇室の崇敬も篤い神社です」と森村宮司。ツイッターで「炭治郎っぽい」と紹介されていたことは知らなかったという。しかし、息子さんが鬼滅ファンとのことで、銀さんから王寺町を通じ依頼されたコスプレ撮影を喜んで許可してくれた。「おくどさん(竈の神様)なら、皆さんの身近にもきっといると思うので、世界観に浸りやすいのでは?」と銀さん。
そして、久度神社から徒歩圏内にある「舟戸児童公園」(奈良県北葛城郡王寺町)には、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を彷彿とさせるSLがある。明治23年に奈良県初となる大阪鉄道会社の王寺・奈良間が開通し、今年、駅開業130年を迎えた王寺町は、鉄道の町としても知られている。
地域交流課の前田さんは、「県内には他にもSLはありますが、王寺町のSLは気軽に運転席などで撮影できるんです」と説明する。また、「SLと久度神社どちらも、JRや近鉄の駅から近いので、駅前の王寺町地域交流センター「りーべる王寺」の和室を借りて、コスプレに着替えてもらえたら。コスプレ撮影許可も観光協会に連絡ください」とウェルカムな態勢だ。
作品に直接ゆかりがある場所ではなくても、「周りを見渡せば、身近なところにあなただけの聖地がきっとあるはず」と、銀さんは話す。
同行した迦南丸さんは「鬼滅は家族愛がテーマの作品。私たちは家族でコスプレをして世界観を楽しみますが、コスプレしなくても、いろいろな場所を家族で訪れて世界観を共有するのも醍醐味だと思います」と話す。家族一緒に楽しむことで、思い出が共有できるし、新たな発見や絆が芽生えるかもしれない。
取材・写真/いずみゆか
(Lmaga.jp)