役に通じる「愛され力」を発揮、花組・水美舞斗主演『銀ちゃんの恋』大阪開幕
ヒリヒリするような心と心のぶつかり合いに芝居の醍醐味を感じる、宝塚歌劇花組公演『銀ちゃんの恋』が、「梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ」(大阪市北区)で9月2日に開幕した。主演の男役スター、水美舞斗(みなみ まいと)にとっては初の東上公演主演作。8月24日に終えた神奈川での公演を経て、彼女の地元・大阪に乗り込んだ。
つかこうへい原作の「蒲田行進曲」を宝塚歌劇団の石田昌也が潤色・演出した同作は、1996年に初演され今回が4度目の上演。映画俳優の倉丘銀四郎は、破天荒な言動で周りを振り回しながら、映画スターとして生き残ろうと我が道を進んでゆく。昭和の人情味あふれる世界をタカラジェンヌが体当たりで演じ、最後は清々しさが残る異色作だ。
水美が演じる「銀ちゃん」こと倉丘銀四郎は、「主役はオレだ!」と自ら言い切る姿に説得力があり、スターとしての輝きと憎めない愛嬌で惹きつける。高い身体能力を活かし、映画「新選組血風録」の土方歳三に扮して、スピード感あふれる立ち回りを披露。どこまでも自己中心的な銀四郎が、孤独を抱えてさまよう後半の葛藤も、哀感漂う演技や歌に乗せて届けた。
「映画愛」でこの世界に飛び込み、銀四郎に師事している大部屋役者の「ヤス」こと平岡安治役は、実力ある飛龍(ひりゅう)つかさ。銀四郎の子を身ごもっている女優・水原小夏と結婚することを彼から頼まれ、受け入れた彼の健気さと愛情の深さが、温かい歌声からも伝わってくる。
これまでさまざまな役者が演じる銀四郎とヤスを観てきたが、理屈では説明しきれない男二人の絆が、長年花組で育った水美と飛龍ならではの、言葉を超えた演技からにじみ出ていて感動的だった。
銀四郎を愛しつつ、心優しいヤスにも惹かれていく難しい役どころの小夏を演じたのは、入団3年目の星空美咲(ほしぞら みさき)。芯が強く家庭的な小夏が、ヤスの故郷で歓迎され、ますます責任感と母性が芽生えていく様が自然で頼もしい。
ほかにも、銀四郎のライバル役者・橘を華のある存在感で見せた帆純(ほずみ)まひろ、映画監督だけでなく自治会長役も愉快に演じた悠真 倫(ゆうま りん)など、幅広い役柄を出演者たちが大胆に演じ、芝居ながら極彩色の華やかさと勢いを感じる。公演は9月10日まで。なお10日の千秋楽公演は、ライブ配信もおこなわれる。
取材・文/小野寺亜紀
(Lmaga.jp)