ズボンを脱ぎ捨て挑んだ13年間、大和悠河「ようやく私に」
天性の華がある男役として人気を集め、2009年に宝塚歌劇団を卒業した大和悠河。現在は、ミュージカル女優にオペラ歌手、さらにバラエティ番組ではタレントしても活躍。「宙組トップスター」という大きい仮面を取ったあとも、自らの力を試すべくさまざなフィールドに挑戦し続ける大和だが、劇場アニメ『怪盗クイーンはサーカスがお好き』でついに声優デビューを果たす。
取材・文/小野寺亜紀 写真/横江実咲
■「ミニスカートをはき、自分は女なんだと言い聞かせた」(大和)──宝塚を卒業されてから13年経ちましたが、元トップスターというひとつの看板を背負うなかで、どのような思いで過ごされてきたのでしょうか。
まず幼少の頃からの大きな夢が、宝塚の男役をやること。しいてはトップになることだったので、「夢がかなった!」というのがあり、その後卒業して「何をしようか。結婚でもするか!? でも相手もいないし、そんな気もないし・・・」なんて思ってたんです(笑)。それで舞台のお話をいただき、女優を始めたわけですね。
──最初は大変でしたか?
やっぱりそれまではファンのみなさんの想いに応えようと、一生懸命、理想の男役像を作ってきましたが、それを脱ぎ捨てなければなりませんでした。
なので女優になったとき、まず「ズボンをはくのはやめよう」と。ズボンをはくと、本当に男役に戻っちゃうので、とにかくワンピースを着よう、しかもミニスカートをはこうと、なるべく肌が出るようにして「自分は女なんだよ」と言い聞かせるよう、心掛けていました。
──そこまで徹底されていたのですね。
普段の生活から男役になっていたので、いわゆる「普通の自分」がどういうものかわからなかったというか。だからワンピースばかり着て、とにかく「女性!女性!」と思っていました。今はようやく、女性も男役も関係なく「私は私だ」というところに辿りついたかなと思いますが、それまでは結構苦労しましたね。
──最近は新たにYouTubeチャンネルも始められ、自然体なトークを発信されていますね。でもやはりスター性のある、キラキラしたところは変わらないように感じます。今後「大和悠河」として目指していきたいところは?
男役のときには、それこそ男役の美学ではないですけど、大和悠河にしかできない男役、自分の内面を掘り下げて作り上げる男役像を目指していました。今もやはり私らしいもの、もっと自分の経験を含めて、今の私のなかから生まれるいろんなものを出していきたいな、と常に思っています。
■ジャニーズに「男らしさ」を伝授!?──そんな大和さんの退団後のご活躍のなかでは、『シカゴ』(2014年)のロキシー・ハート役が印象的で、「生き抜くんだ!」という強い意志と、キュートな部分とがぴったりハマっていたように思います。
ありがとうございます! ロキシー・ハートは「ザ・女性」という感じの役ですが、男役で学んだ色気を女性としても出すところが役に立ちました。それにずっと愛されているブロードウェイ・ミュージカルだからこそ、ストーリーにも歌にも踊りにも無駄がなく、ものすごく深い作品だったので、それを探求できたのはうれしかったです。また、私たちの日本版をブロードウェイにも持って行くことができ、得たものは大きかったですね。
──「男役で学んだ色気」というワードが出てきましたが、バラエティ番組『まいど!ジャーニィ~』(カンテレ・フジ系)では、関西ジャニーズJr.の方たちに「男らしさ」を伝授されていましたね。
同番組は今年で8年目の出演になります。関西ジャニーズJr.の子達が寸劇で各々が思う「男らしさ」をまず演じ、それに対して私が更にグレードアップする「男らしさ」のアドバイスをします。ジュニアの子たちはすごく素直に聞いてくれて(笑)。それに私も、「宝塚で身につけた技を、こうやって教えてあげることができるんだ!」と新たな発見がありました。
──そんな彼らのなかには、今や人気グループ「なにわ男子」のメンバーもいましたね。
そうですね。本当に「なにわ男子」の子たちは、『まいど!ジャーニィ~』で小さいときから知っているので、「デビューして立派になって!」と、親心でとてもうれしいです。
■「宝塚で男役をやっていたのが活かされた」(大和)──初刊発売から20年目にして初めてアニメ映画化された『怪盗クイーンはサーカスがお好き』。主人公・クイーン役の声を、というオファーがきたときはいかがでしたか。
初めは「間違いではないだろうか」と半信半疑でした(笑)。でも、役が性別不明のキャラクターということを知って、宝塚で男役をやっていたということもあり、お話をいただけたのかなとうれしさがどんどんこみあげてきて。「怪盗クイーン」シリーズはそれまで読んだことがなかったのですが、全巻買って読み始めたら楽しくて、一気に徹夜もして読み終わりました。
──止まらなかったんですね(笑)。以前、舞台『A/L -怪盗ルパンの青春-』(2007年)の上演前にインタビューさせていただいたとき、推理もの、探偵ものがとてもお好きだと伺いました。
アルセーヌ・ルパンはもちろん、名探偵ポワロ、シャーロック・ホームズなどが大好きで、家にたくさん本があり、何度も読み返すぐらいでした。その原作を基にした海外ドラマの放送を見るために、小学校から早く帰ってくることもあって。
だからこの「怪盗クイーン」シリーズに出会いワクワクしましたし、お話をいただいて幸せでした。作品のなかに「赤い夢へようこそ」と書かれてあるのですが、まさしく小説を開くとそこから「怪盗クイーン」の世界へ入っていけるんです。
──同作のストーリーにおける魅力はどう感じていますか?
予告状を出し、困難も乗り越えて目的のものを盗む・・・という「王道の怪盗もの」だということ。さらに登場人物がすごく素敵で、ずっと愛読されている方はそれぞれ「このキャラクターが好き」という人物がいるほど、ひとりひとりがこの世界のなかで魅力的に生きているところだと思います。
そのなかでクイーンは性別も年齢も国籍も不明。頭のなかではとんでもないことを考えていたり、超人的な技を持つ人間離れしたところがあるけれど、一方でとても人間味のあるキャラクター。その細部まできっちり描かれているところに、はやみねかおる先生(作者)の愛が感じられます。
──性別不明という面も、声で表現するのは難しそうですね。
そうですね。アフレコをする1週間ぐらい前からずっと胃が痛かったです(苦笑)。20年来愛されている作品だからこそ責任重大だし、みなさんが想像するクイーンを表現しなきゃいけないという想いがあったので。
でも、自分が温めているクイーン像で臨んだら、「そのままでいきましょう!」と、予定より早く、半日でランチの前に全部録り終えたので「私の思っていたクイーン像と一致してよかった」とホッとしましたし、宝塚で男役をやっていたこともすごく活かされたと思います。
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劇場アニメーション『怪盗クイーンはサーカスがお好き』は6月17日公開。
(Lmaga.jp)