今回のMVPは家康をかばった長吉 史実に基づくも鮮烈な印象を【どうする家康】
徳川家康の選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。2月26日放送の第8回『三河一揆でどうする!』では、一向一揆側についた軍師の、意外なようで意外じゃないけどやっぱり意外だった正体や、思わぬ伏兵の見せ場にSNSが盛り上がった(以下、ネタバレあり)。
■どうする家康、家臣の誰も信じられない僧侶・空誓(市川右團次)率いる一向宗との対立は、ついに武力対決に突入。相手は坊主だとたかをくくっていた家康(松本潤)だが、自分の家臣を含む武士たちが一向宗側についた上に、優秀な軍師の存在もうかがえ、思った以上に苦戦する。
家康の命で、服部半蔵(山田孝之)と部下・女大鼠(松本まりか)は一向宗の本拠地「本證寺」に入り込み、空誓の暗殺まであと一歩の所に迫るが、軍師の存在に気づいた半蔵が弓を構えていた女大鼠を制止。その軍師とは本多正信(松山ケンイチ)だった。
その頃家康は、家臣の土屋長吉重治(田村健太郎)の手引きで、みずから寺に攻め込むが、待ち伏せていた正信に狙撃。致命傷はまぬがれたが、一向宗徒が家康を取り囲み、とどめを刺そうとする。
しかしそこに長吉が割って入り、家康の命を救った。長吉は、「裏切り者は…、まだ近しい…、ご家臣にも」と告げて絶命するが、それによって家康は家臣の誰もが信じられなくなる…。
■いろんな意味で信じられない展開2月末まで来たところで、このドラマはどうやら35分ぐらいを過ぎた辺りから、急激に核心に迫っていくというのが、ほぼお約束だと読めてきた第8回。その「核心」のひとつとなったのは、「軍師の正体が実は本多正信でした!」ということ。SNSでは「ええええ嘘おおお!」という驚きの声と、「うん、知ってた」という冷静な声に大きく分かれた。
「知ってた」派については、正信は「三河一向一揆」で一向宗側に付いた代表的な家臣なので、あちら側の軍師になったとしても、別段おかしな話ではないということ。ただ松ケン版の正信は、信仰とは無縁そうな無責任系キャラだったので、史実を知らない人たちにとっては、いろんな意味で信じられない展開だっただろう。
SNSでも「あんな怪しいと言われた奴がガチで裏切ることあるんだw」「ある程度の最低限の予備知識はあるけど、情報の隠し方と、ヒントの見せ方と、初出しのタイミングが巧い」「これは史実知らなかった方が盛り上がったなあ…史実め」など、いろいろな感想が並んだ。
とはいえ、彼が一揆方についたのは、果たして信仰が理由だろうか? それに懐疑的な人々からは「敵に本多正信いますよって言ったら家臣団のみんなはめちゃくちゃ団結して討ち取るために頑張ると思う」「真の意図は、家康を亡き者にするためではなく、家康を目覚めさせるため。主とは如何にあるべきかを、実地で学ばせる人物に思える」などの推測も寄せられていた。
■「僕も、もっと一緒にいたかった」(長吉)そして今回のMVPは、朝ドラ『なつぞら』や、山田裕貴主演の『ここは今から倫理です』など、NHKのドラマでおなじみの俳優・田村健太郎が演じた長吉だろう。彼は実在の人物で、一揆側に付いていたものの、土壇場で家康をかばって亡くなったと伝わっている。
その史実をなぞったような最期に、SNSでも「結局殿をかばって亡くなっちゃったの辛いし、殿を支えながらも熱心な一向宗徒だったっていう立場も辛い」「信仰と忠義の間で揺れ動く、悲しくも心に残る男」「長吉が家康と信仰の板挟みの結果落命するってのが、この内乱の残酷さを表してるな」と、たった2話の登場ながらも鮮烈な印象を残した。
とはいえ、長吉が中途半端に「裏切り者が身内にいる」と言ってしまったがために、家康が家臣の誰も信じられなくなるというのは、ちょっと余計な置き土産であった。むしろハッキリと「本多正信が裏切ってます」といえば、ショックではあるけどスッキリしただろうに。
SNSでも「長吉くんの今際の言葉が半端だったために、ヤッスは呪いにかかってしまった」「おそらく善意で伝えたのだろうけど、いかんせんタイミングが悪すぎた」と間の悪さを指摘すると同時に、「家康への贖罪として告げたんだろうけど、それが逆に家康の疑心暗鬼を生ずるようになる展開、クッソ上手いわ!」と、仕掛けのうまさに唸ったという言葉も。
また、今日で出番を終えた田村が、お礼の言葉をツイッターに投稿したところ、本多忠勝役の山田裕貴が、「長吉さぁぁぁぁぁん」と、泣き顔の絵文字付きで引用リツイート。それに対して田村が「平八郎くん、僕も…もっと一緒にいたかった…もう行かなくちゃ。また、必ず会える。ご武運を!!」とエールを送るという、微笑ましいやり取りも見られた。
『どうする家康』は、NHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。第9回『守るべきもの』では、家臣への不信感から引きこもってしまった家康が、究極の選択の末に一揆の平定に乗り出すまでが描かれる。
文/吉永美和子
(Lmaga.jp)