愛希れいか「100年に1度くらいは、こういう娘役がいても」
「タカラジェンヌのなかでも、かつては異質と言われていましたね」と話すのは女優・愛希れいか。宝塚歌劇団で男役として2009年にデビューしたのち、2年後に娘役へと転向。「唯一無二の存在」は退団した今でも彼女の最大の魅力として残っており、女優としての変幻自在なポテンシャルは、ミュージカル『ファントム』や『マタ・ハリ』をはじめ、数々の注目作でもひときわ輝く。
2023年はミュージカル『エリザベート』にはじまり、4月20日にはミュージカル『マリー・キュリー』の大阪公演が開幕。日本初演を迎えた同作への意気込みはもちろん、1人の女優・愛希れいかとしての野望について、改めて話を訊いた。
写真/バンリ
■ 「自分が爆発してしまうんじゃないか」──ミュージカル『マリー・キュリー』は韓国で生まれの作品で、今回は満を持して日本に上陸。日本でも馴染みのあるノーベル賞受賞科学者・キュリー夫人を題材とした物語です。3月に東京公演を終えられましたが、手応えはいかがでしたか?
きっと難しい話だろうとイメージされるお客さまが多いと思っていたので、「どういうふうに受け入れられるのか?」「どういう反応されるのか?」という不安が大きかったです。でも初日をご覧になった方々の「絶対に観たほうが良いよ」と言ってくださった口コミで広がっていって・・・最終的にはたくさんのお客さまに届けることができました。本当に良いと思って見てくださることは、私としてはこの上ない幸せでした。
──今回は東京公演を終えて、大阪公演が約1カ月後という、少し期間が空いての公演となりますね。同作は物語においても、シビアな作品なので、気持ちの保ち方としてもずっとロングランで公演を打っていくのとはまた違った大変さがあると思います。
そうですね、大阪に入る前に思い出し稽古というのをしてから入りますが、『エリザベート』からここまでずっと走り続けてきたので、1回オフにしました。作品のことはずっと頭のどこかにあるけど、休まないと体が持たない(笑)。だいたいいつも休もうと思っても「声がでなくなってしまうんじゃないか?」と不安になってしまい、歌ってしまうのですが、今回は「絶対歌わない」と決めましたね。
──それって愛希さんにとっては、かなり珍しいことなのでは?
そうですね、今回は特にエネルギーがいる役でしたし、劇中に出てくるラジウムの説明で「おそらく自らの身体を爆発させて、大きな力を出す」というようなセリフがあるのですが、「自分が爆発してしまうんじゃないか」みたいな感覚に陥ってしまうので、一旦リセットしようという気持ちですね(笑)
──これまで演じられてきた役のなかでも結構ヘビーな役どころだったのではないでしょうか。
もちろん『エリザベート』や『マタ・ハリ』もストーリーのなかで追い打ちをかけるようにどんどんのしかかってくるのですが、今回は自分が演じてきたなかでもいろんな意味でヘビーですね。とにかく天才なので、天才の頭脳は理解しようとしても理解しきれないので、役作りには苦労しました。
──でも演出家の鈴木裕美さんは、役どころとの共通点として「ストイックで猪突猛進なところが似ている」と仰っていました。
頭脳に関してはまったく違うのですが(笑)。ひとつのものに対して情熱を注ぐことは共感できますし、「これは自分の好奇心で始めたこと・・・」と、ノーベル賞を受賞した後に言うセリフがあるんです。
自分自身もずっと宝塚のファンで、舞台に立ちたいという好奇心で始めたことだったので、こうしてチケット代を払っていただいて、見に来ていただける。このセリフをいうときは自分自身との共通部分が実感としてありますし、ほかにも自分にズンと響くセリフが多いですね。
■ 「ファンの方を目にしたとき、責任を感じた」──愛希さんは、舞台に立ちたかった頃の夢というか、当時少女だった頃の気持ちをずっと持って舞台に立ってらっしゃるイメージがあります。そしてさまざまなインタビューで愛希さんは舞台でのお仕事を「芸事」と表現されているのが印象的で。改めて愛希さんが考える芸事とはなにか、教えていただきたいです。
芸事は、自分が言葉にできないくらいの感動や衝撃を与えてくれて、生きる活力になったもの。なので、自分のなかでは特別なものですね。あと芸事には終わりがないし、1位をとれるとか結果が目に見えるものじゃないので「苦しい」「辛い」という感情もあるんですけど、後から誰かのためになっていたというのを知ったりすると、すごくうれしいです。
「あなたの舞台が見たくて」とか「明日の仕事を頑張るエネルギーになるんです」というのを言われると、やっぱりやめられないですね。
──最初は自身の好奇心から始めたものがいつしか「人のため」に舞台に立つようになったと。その意識はいつ頃から芽生え始めたんですか?
そうですね、自分が宝塚のトップスターの方の相手役にならせてもらったときですかね。そのときは正直何も分からない状態で子どもだったんですが、ファンの人からお手紙をいただいて・・・ファンクラブができたり、出待ちをしてくれて、自分の舞台を見に来てくれて・・・と、なかでもファンクラブができるなんて、自分が夢見た頃には想像もしていなかったんですよね。
もちろん自分は宝塚歌劇団のみなさんのファンではあったけれども、まさか自分にファンができるなんて思ってもいなかったんです。最初はプレッシャーを感じて押しつぶされそうになっていたのですが、「愛希れいかのファンです」とたくさんの方たちを目にしたときに、「自分には責任があるな」と感じました。
■ 「『娘役っぽくない』と言われた時期もありました」──少し込み入った質問になるのですが、愛希さんはデビューしてから約2年後に男役から娘役へと転向されましたよね。あの経験は今の愛希さんにとって、どういったものとして残っているのかな? と思いまして。
「娘役っぽくない」と言われた時期もありましたし、自分のなかでは娘役に対する理想もあったのですが、いつしか「自分が理想の娘役にはなれないっていう、自分とは個性が違うんだな」と自覚したんです。そのときに「じゃあ100年に1度くらい、こういう娘役がいてもいいかな」と振り切れましたね。
──『エリザベート』では花總まりさんと、『マタ・ハリ』では柚希礼音さんとWキャストをつとめ、娘役や男役、さまざまなバックグラウンドの女優さんと共演されていますもんね。
娘役と男役、どちらも経験させてもらえたおかげで「幅」はできたのかなと思います。正直なところ、(退団後も同じ)芸名を使うかどうかはすごく悩んだのですが、自分がしてきたことだったので、そのままで行くことにしたんです。
──今後女優・愛希れいかとして、チャレンジしてみたい作品などありますか?
明るい作品・・・ですかね(笑)。最近は役どころが、わりとどん底に落とされるみたいなことが多いのでハッピーミュージカルやコメディも挑戦してみたいですね!
そういう面で言うと、今回の『マリー・キュリー』は重たいといえば重たい物語なのですが、実は作品に込められたメッセージというのはすごく前向きな人間ドラマだったりするんです。大阪公演でもみなさんの心に届けられるよう、そこもしっかりと演じていきたいです。
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ミュージカル『マリー・キュリー』は愛希れいかほか、上山竜治、清水くるみらが出演。「梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ」(大阪市北区)にて4月20日~23日に上演、チケットは1万2500円ほか(発売中)。
(Lmaga.jp)