ミュージカル界の「ダメ男」は総なめ、海宝直人が役にかける思い

7歳に、劇団四季『美女と野獣』でミュージカルデビューし、以後20年以上に渡り『ライオンキング』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などの話題作に出演してきた俳優・海宝直人。21世紀に入って大きく変化した日本のミュージカル界と成長を共にしてきたひとりだ。

そんな海宝の最新主演舞台『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』は、モーツァルトの名作オペラの台本を手掛けた知られざる天才、ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯に迫るオリジナル音楽劇。今までにないタイプの主人公を演じる心境や、現在の日本のミュージカルについて思うことなどを訊いた。

取材・文/吉永美和子

■ 「楽しみながらキャラを作っていくことになりそう」──ダ・ポンテは『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』という、当時としては革新的なオペラを書いたにも関わらず、今や作曲したモーツァルトの名前だけが独り歩きしているという、ある意味不幸な人物です。

彼とモーツァルトは、4年間しか一緒にやってなかったんですが、この2人の感覚がバチッと合ったことで、その時代にはなかった新しい価値観みたいなものを表現できたんだろうと思います。今回の台本を読んで、すごいアーティストだと思ったし、彼の視点から描くことで「モーツァルトにはこういう部分があったんだ」ということも、興味深く見てもらえると思っています。

──その一方で、80歳近くまで詩人や教育者として精力的に活動したという、なかなか面白い生き方をした人物でもあります。

最後まで前向きにチャレンジを続けるし、すごくエネルギッシュで極端な人生を送った人だから、今まで演劇の形であまりフィーチャーされてなかったのが不思議なぐらいです。ただ今年になって急に、橋本良亮くんの舞台(『逃げろ!』/今年2月に公演終了)でも取り上げられて、ビックリしましたけど。

──別に没後何年とかいうタイミングでもないのに。ただ、周囲に詐欺師呼ばわりされても、信念を貫こうとするダ・ポンテのガッツあふれる生き様を、いろいろ制限されがちな現在の日本人が見たがっているのかな? とも思います。

確かに。コンプライアンスとかが厳しい今の時代に、ああいう刺激的な生き方をする人を見るのは、すごくいいかもしれないです。でも、彼が詐欺師扱いされるのは、自分のつかみたいもののために、すごく必死に立ち回った結果なんですよ。

純粋な思いから行動するけど、回り回って自分に返ってきて、悲しい目にあってしまうという(笑)。そこが憎めないし、チャーミングだなあと思います。

──そういう無邪気なペテン師でありつつ、女性にもだらしないという人物を、海宝さんは今まで演じたことがないとおっしゃってますが、そもそもそんなキャラクターが主人公になる作品って、あんまりないですよね。

そうかもしれないです。女好きというのも、愛が多いというか(笑)。「だって、愛してるんだもん!」って、すぐに誰でも好きになっちゃうけど、最後に相手にブチ切れられて振り回されて、やっぱり不幸になるんです。そういうところを、コメディ要素強く描いていくので、僕も楽しみながらダ・ポンテのキャラを作っていくことになりそうな気がします。

■ 「ジャン・バルジャンのように生きられる人の方が少ない」──海宝さんは20年以上、さまざまなミュージカルに出演してきました。20年前の日本のミュージカル界は上演作品も限られていて、なかなか若者にチャンスが回ってこない印象がありましたが、今では20代~30代の若手俳優にも主演のチャンスがある。すっかり様変わりしましたよね。

確かにそうですね。特に最近は、漫画やアニメの原作作品がすごく増えたのが大きいと思います。(取材時の)今も『SPY×FAMILY』や『キングダム』をやってますし。それによって、原作で興味を持った新しいお客さまが増えたし、漫画やアニメの世界とも刺激を与えあっていて、素晴らしいことだなあと思います。

──海宝さんも『王家の紋章』や『バイオハザード』に出演されてますが、原作があまりに有名だと、役作りに結構制約がかかるのではないかと思うのですが。

輸入物のミュージカルもたくさん決まりがありますけど、それとはちょっと違うアプローチの面白さがあります。たとえば『王家の紋章』は、原作者や原作ファンの思いを大事にしなければという思いに加えて、あの絵柄からインスピレーションを受けたりもしました。原作の「型」にはまりつつも、そのなかでいろいろ試していけるという楽しさを、原作物にはすごく感じます。

──イチから作るから、まったく「型」がない『ダ・ポンテ』は、それとは真逆ですね。

たぶん、いかようにも表現ができるから大変だと思いますよ。みんなでいろいろと持ち込んで、チャレンジして作っていかなきゃいけない。そのプレッシャーは感じています。

──一方で、日本で何度も上演される海外ミュージカルの出演も多いですが、『レ・ミゼラブル』のマリウス、『ミス・サイゴン』のクリス、「ファントム(オペラ座の怪人)」のシャンドン伯と「ヒロインの相手役なのに女性に敵視される」三大キャラクターを、コンプリートされてますよね。

そうなんです。三大ダメ男と呼ばれたりすることも多いですよね。

──これ、不名誉だなって思ったりしますか?

全然思わないです。むしろ実際にやらせてもらうと、すごく人間らしい人たちだって思うんですよ。マリウスが「ダメ男」と言われる所以はよくわかるんですけど、実際に探究して、自分自身と照らし合わせたときに・・・決してヒーローではない人が、その時代の空気感や感覚のなかで、彼らなりにすごく考えて必死に生きて、苦しんで、いろんな選択をした結果、そういう流れになってしまったんだろうな、と感じます。

──そう言われると、幼なじみの片思いに鈍感すぎるマリウスも、革命下の極限状態じゃなく平穏な時代であれば、また違う判断ができたような気がしますね。

本当にそこに生きた生身の人間として描かれているからこそ、人間の持つ弱さやダメな部分がすごく伝わってくるし、すごく魅力的に思えるんです。それが「ダメ男」と言われて嫌われつつも、みなさんに愛されている理由じゃないでしょうか。

──人間らしく素直に行動した結果が、特に女性から見たら残念に見えてしまうと。

そうそう。でも多いでしょう? そういう人(笑)。(『レ・ミゼラブル』の主人公)ジャン・バルジャンのように生きられる人の方が少ないですよ。

■ 「韓国は、オリジナル作品の勢いがすごい」──最近では、海宝さん自身イギリスやポーランドの舞台に立つなど、海外の現場に触れる機会も多くなりましたが、そのなかで日本のミュージカルの良いところや、あるいは「もっとこうなればいいのに」と思ったことなどはありますか?

先日(韓国人俳優の)ヤン・ジュンモさんとトークセッションをしたときに、彼の感覚として「日本はすごく進んでいる」とおっしゃってたんです。たとえば(取材時の)今僕が出演している『太平洋序曲』は、韓国ではまだやってないし、受け入れられるか分からない。

──今、韓国ミュージカルは眼を見張るほどの勢いなのに、それは意外ですね。

日本はスティーブン・ソンドハイムのような解釈の幅広い作品も舞台にかけられるし、上演される作品の幅が広いのがすごくうらやましいから、そこは日本に追いつかないといけないと思っているとおっしゃっていました。でも一方で韓国は、オリジナルミュージカルの勢いはすごいじゃないですか?

──先日、日本版が上演された『マリー・キュリー』もかなり評判がいいですし。

それは僕たちから見るとうらやましい状況だし、素晴らしいなと思うところ。そういう意味では、日本のオリジナル作品を・・・さっきもお話した通り、昔に比べるとすごく増えていますが、さらに海外に発信していけるような作品が育っていけばと思いますね。だから今回の『ダ・ポンテ』のような作品に携われるのはうれしいです。

──自分のなかで「こういう作品になればいいなあ」と考えていることはありますか?

ダ・ポンテは不遇な人生を送ったと思われがちですけど、長い人生の一瞬を照らす花火みたいな、すごくいい瞬間が彼にはあったし、誰でもそのときそのときにあると思うんです。だから人生って、本当にいろんなことがあるけど、すごく生きるのに値する・・・という、人間讃歌みたいな舞台になるのかな? と思っています。

──あと、海宝さんは実は温泉好きという話を聞いたのですが、地方公演の合間にも足を運んだりするんですか?

(『太平洋序曲』大阪公演中の)今回も行きました。耐えられなくて(笑)。温泉は大好きですけど、ちゃんとした温泉地に行くことは少ないんですよ。劇場界隈にあるスーパー銭湯とか、ちょっと雰囲気のある露天風呂のある施設とかを、探して行くことが多いです。

──だったら関西は、天然温泉のスーパー銭湯がたくさんあるので、当分楽しみはつきなさそうですね。

『よ~いドン!』(カンテレ)さんに出たときも、(関西の)温泉が紹介されていたので「行きたいなー」って思っていました。調べたら、郊外の方にまだいろいろあるみたいだから、機会があれば行ってみたいです。

舞台『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』は6月の東京公演を経て、大阪は7月20日~24日に「新歌舞伎座」(大阪市天王寺区)で上演される。チケットはS席1万2500円、A席6500円ほかで、5月21日から発売開始。

(Lmaga.jp)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

関西最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス