M-1敗者復活の注目株・バッテリィズ、ピュア男が本質を突きまくる
12月24日に開催される『M-1グランプリ』。決勝戦の前には、惜しくも準決勝で敗れた21組のコンビが、決勝への1枠をかけて挑む「敗者復活戦」がおこなわれる。精鋭たちのなかで注目したいのが、結成10年目のバッテリィズ(エース、寺家剛)だ。
大阪の「よしもと漫才劇場(通称:マンゲキ)」を拠点に活動する同コンビのおもしろさは、明るくて真っ直ぐな男・エースの発言に対して、とにかく困惑する寺家のやりとり。ただ、エースの言い分があまりにアホ過ぎて、それが正論のように聞こえてしまうのが彼らの漫才のすごいところでもある。今回はそんな2人に、敗者復活戦を直前に控えての心境などを語ってもらった。(取材・文/田辺ユウキ)
■ 笑ってないお客さんに「なんでやねん!」って(エース)──初の敗者復活まで1週間を切りました。今の心境はいかがですか?
エース:初めての準決勝で、あと1個で決勝にいけるっていう気持ちで爆発した分、そのときと比べたらゆったりした気持ちではいれています。
寺家:僕も同じですね。夏頃から帰り道はずっとネタの音声を聞いていて、聞きすぎて相方の声も嫌いになってましたし(笑)。負けた瞬間に1回パーン!とゼロに戻ったというか、一旦全部なくなった状態です。今、敗者復活に向けて気持ちを持ち上げようとしているところですね。
──初めて踏んだ準決勝の舞台、雰囲気はどんな感じでしたか。
寺家:僕は準決勝というより、東京会場(NEW PIER HALL)の空気に壁を感じました。大阪勢で初めての準決勝から一発で決勝へ行けたのって、これまでにさや香さん、ももさん、ミルクボーイさん、ギャロップさんくらい。ロングコートダディさんからも「1発目の東京は難しい」と聞いていたんです。やっぱり、自分らのことをまったく知らない人がたくさんいるんで。やり辛いとかではなく、こじ開けられへんみたいな。
エース:めっちゃ笑ってくれるお客さんもいたんですけど、やっぱり笑いが薄いなと感じるところもあって。ムカついて、笑ってないお客さんの方に向いて「なんで笑わへんねん!」って感じで攻めたんですけど、何も変わらなかったですね(笑)。
──今回のファイナリスト・真空ジェシカさんが別のインタビュー記事で、「自分たちの前の出番のバッテリィズがめっちゃウケていたから、その空気に便乗してネタをやったら決勝へ進出できた」と話していました。
寺家:いやいや、あの日の真空ジェシカさんは、前の出番が誰であっても決勝に行けていたと思います。出順も近かったですし、僕は「真空ジェシカさんを倒さないと」という気持ちでいました。東京の他事務所で、めちゃくちゃ強いコンビですし。準決勝が終わった後にガクさんが「絶対に決勝行ったな。俺らは無理だ」って言ってくれて、ええ人やなあと思ってたら・・・結果は全然違った!(笑)
エース:僕は出番順とかほかに誰がいるかとかは全然気にしないし、とりあえずウケたら良いなと思って全力でやっています。さすがに今回の準決勝は、出順前後のくらげさんと真空ジェシカさんは倒さないと、というのはありましたけど、それだけでしたね。
──いつもとは違う空気感のなか挑んだ準決勝ですが、今回の結果を受けて今、お2人のなかで「ここが届かなかった」というものが見えていたりしますか?
寺家:そこ、めっちゃ考えてたんです。僕らのネタってエースが「アホでピュア」というキャラを乗っけてやっていますが、僕らのことをまったく知らなかったら「ちょっとヤンチャなヤツ」に見えるかもしれないですよね。例えばエースが黄色いトレーナーとか着ていたらアホ丸出しで分かりやすいけど、そういうおもろさを見せるコンビじゃないですし。ほとんど情報がないから「これはどっちや」という風に見られていたのかもしれないです。
──でもバッテリィズのネタは、「人の言うことはアホ過ぎると逆に正論に聞こえる」という部分がおもしろいですし、一瞬で心が掴まれます。しかも毎回エースさんの反応が、記憶がリセットされてる?と思ってしまうくらい新鮮に見えるというか。
エース:でも実際、僕は相方の話をちゃんと聞いてないんで、いつもあまり理解はしてないですね。
寺家:僕、びっくりしたことがあるんですけど、ライブでアホの芸人が集まってクイズコーナーとかをやるじゃないですか。何回か出れば少しずつ賢くなるはずなんですけど、出演者みんなに共通してるのが、どれだけクイズをやっても帰り道には答えを忘れているんです。「国民の三大義務」とか何回もお題に出てるのに全然覚えてない。
エース:賢くなりたい欲は本当にないですね。ネタでも言ってますけど、今で十分、毎日が楽しいですし。でも最近、ネイビーズアフロの皆川さんにいろいろ教えてもらうライブで、「インボイス」の仕組みはちょっと覚えました。
寺家:「インボイス」って申請を出しても、出さなくても個人の自由じゃないですか。その説明のときに、エースは「そんなん、どっちでも良かったらあかんやろ!」って一撃で芯食ったみたいなこと言ってて(笑)。もちろん(申請が自由なのは)色んな事情はあると思うんですけど、それだけ聞いたら、その場にいた大人が全員納得して。
エース:なんも分からずに言ったら、みんな「おお~!」ってなって。でも僕からしたら、その反応の意味も分かってなくて(笑)。
■ 『M-1』はエースで笑ってもらいたい(寺家)──寺家さんはそういうエースさんの「アホ」を受け止めて、ツッコミを入れる側ですよね。
寺家:実は僕もめっちゃアホなんです。ただ、エースがアドリブで言ったことを僕も同じように分からんかったら、コンビとして終わりじゃないですか。「僕も分かりません」って言ったらその場の笑いは起きるかもしれないけど、長い目で見たらコンビとして絶対に良くない。自分のアホを押さえないといけないんで、ちゃんと努力してます。ほんまはやりたくない時事とか勉強しています(笑)。
エース:こうやって自分で言ってるからそうなんやとは思うんですけど、いろいろ知ってますし、大学行ってるからなぁ・・・。
寺家:エースのアホさを受けたうえで、ちゃんと振る舞っている僕が困惑できないとネタとして成立しない。あと、『M-1』はボケで笑わず、ツッコミが利くことが多いと言われているんですが、あえてツッコミを入れないようにという意識でやっています。これが「NGK」(なんばグランド花月)でのライブやったら僕がいろいろ困った上で最後にちゃんとツッコミを入れるかもしれないですけど、『M-1』ではエースのところできっちり笑ってもらいたいので、僕の方に武器があると思われないようにしています。
──そんなお2人が挑まれる『M-1』の敗者復活戦ですが、2023年からブロック制の勝ち抜きサバイバル方式になりました。バッテリィズは「マンゲキ」のフースーヤ、ドーナツ・ピーナツの2組と同じCブロック。ただ、日々一緒に頑張っているコンビとタイマンを張る可能性があるので、残酷なシステムですね。
寺家:どちらのコンビとも仲が良いし、かわいい後輩。でも戦うとなると勝ち負けが決まってどっちかの人生が変わる可能性がある。そう考えると今までとは違ったバトルになりますよね。ただ、もし負けるならあいつらが良いですね。・・・これはちょっと書かんといてください。なんかキモいんで(笑)。
エース:いやいや、その一言は書きたいやろ(笑)。でもなんだかんだで自分らはずっと戦ってるし、だからと言って誰かをライバル視しているわけでもない。こいつに負けたら悔しいとかはないし、なによりみんなおもしろいから。負けたら負けたらでしゃあないと思っています。
──最後に改めて『M-1』への思いを教えてください。
寺家:僕は昔からずっと『M-1』が好き。甲子園みたいな、決勝へ行ったら地元でヒーローになれる・・・漫才師である以上はずっと出たい場所です。
エース:僕はNSCに入るまで『M-1』を観たことがなかったんです。でも小・中・高校の卒業文集には「『M-1』チャンピオンになる」と書いてて。みんなそれが一番おもろいって言ってたからなんですけど。僕にとっては『M-1』が特別と言うより、とにかくなんでも良いから一番おもしろいやつになりたいです。
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バッテリィズが出場する『M-1グランプリ2023』敗者復活戦の模様は12月24日・昼3時より、ABCテレビ・テレビ朝日系列24局で放送される。
(Lmaga.jp)