奈良の「空海展」が前代未聞!? 小中学生は無料に「仏教美術のおもしろさを感じてほしい」
「奈良国立博物館」(奈良市、以下:奈良博)で開催中の、生誕1250年記念特別展『空海 KUKAI─密教のルーツとマンダラ世界』が、「かつてない空海展」と話題を呼んでいる。X(旧ツイッター)で検索すると「#かつてない」のハッシュタグを付けて、同展を紹介しているポストが目立つ。何がどのように「かつてない」のか?
■ 密教とは何だったのか、に焦点同館の井上洋一館長によると、毎秋約17日間の開催期間中に約20万人もの来館者が訪れる、奈良県の一大イベント『正倉院展』と比べても、内覧会に来たメディア数が多いとのこと。同展がいかに注目を集めているかが分かる。
同展では全115件の出展品のうち、国宝28件、重文59件と全体の約8割が貴重な文化財指定品という力の入れようだ。注目は、6年に及ぶ修理を終えて初公開された空海自らプロデュースの唯一無二、現存最古の国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」。巨大な4メートル四方の紫綾地の曼荼羅には、金銀泥で大日如来などの諸尊が描かれており、修理によってその輝きがよみがえった。
「弘法も筆の誤り」のことわざでお馴染み、唐から日本へ密教を伝えた平安時代初期の名僧・弘法大師空海(774~835年)は、一言で語るのが難しいほど、日本仏教史上においてさまざまな事績を残している。彼の最大の功績は、体系的な密教を唐から日本へ伝え、日本でその思想体系を深化させた点だ。
これまでの『空海展』は、長年にわたり何度も全国のミュージアムで開催されてきたが、今回は「空海が生涯かけて伝えた『密教とは何だったのか』に焦点を当てたということが、今までとは違います」と、同展担当の斉木涼子列品室長は語る。
■ 小中学生無料!子どもでも分かりやすくそうは言っても、仏教美術は難しい専門用語が多く、苦手意識を持つ人も多い。さらに、密教と聞くと、多くの人が「なんか難しそうだな・・・」と敬遠しがちになりやすいが、驚くべきことに、同展は小中学生でも楽しめるほど、非常に分かりやすいのも特長だ。
奈良博は、以前から子ども達にも仏教美術に親しんで欲しいと、同館の翁みほり研究員が生み出した公式キャラクター「ざんまいず」が仏教美術初心者に向けて解説したり、ジュニアガイドを制作したりするなど、さまざまな試みをおこなってきた。
本展でいうと、説明が難しい「両界曼荼羅」を図解イラストともに説明。もちろん難しい内容は、すべてかみ砕いた表現にされ、専門用語だけでなく漢字すべてにルビが振ってあり、低学年でも読める解説文になっている。本展は分かりやすさでも「かつてない」のだ。
それに加えて、マンガで空海の人となりや密教の伝播を追いながら、クイズ形式で鑑賞を楽しめる「ワークシート」も用意されている。井上館長は、「今回あえて、小中学生を無料にしています。密教って何? 伝わって何が変わったの? と知り、仏教美術っておもしろい! と思って欲しい」と力を込める。
■ 密教の世界を実際に体感?そんな館長一押しの「かつてない」は、第1展示室(第1章)の「密教とは?-空海が伝えたマンダラの世界」だ。密教の真髄を言葉で伝えるのは難しいので、視覚的に理解するため生まれたのが曼荼羅だが、なんと展示室に空間として表した立体曼荼羅が出現。空海の考えた密教の世界観を身体で体感できる。
そのほか、見どころが盛りだくさんの同展では、あまり知られていない海のシルクロードで東南アジアのインドネシアにも密教が伝わっていたことをビジュアル的に分かりやすく紹介している点も注目だ。インドネシアのガンジュクで出土した10世紀の金剛界曼荼羅彫像群が日本初公開されている。
ちなみに奈良は、若かりし頃の空海が修行に励んだ地。県内には、空海ゆかりの寺院がたくさんあるので、同展とともに巡ってみてはいかがだろうか?同展は「奈良国
立博物館」にて6月9日までの開催。一般2000円ほか、詳しくは公式サイトにて。
取材・文・写真/いずみゆか
(Lmaga.jp)