26年ぶりのアルバム、江口洋介が音楽活動を再始動「リラックスが重要だと、音楽が教えてくれた」
1987年に映画『湘南爆走族』でデビューし、1990年代にはTVドラマ『東京ラブストーリー』や『ひとつ屋根の下』など話題作に出演。1988年には、『ガラスのバレイ』でレコードデビューし、『恋をした夜は』や『愛は愛で』など、記憶に残る数々の名曲を世に送り出してきた江口洋介。
その後、俳優活動に専念し、TVドラマ『救命病棟24時』シリーズや映画『るろうに剣心』シリーズなど数々の話題作に出演し、確かな存在感を感じさせるキャラクターを生み出す俳優として欠かせない存在になっている。
そんな江口が、2023年、アーティストデビュー35周年を迎え、音楽活動を本格再始動。26年ぶりのミニアルバムを10月23日にリリースする。そして、11月6日に「ビルボードライブ大阪」(大阪市北区)にてアルバムを携えてのライブを開催する江口洋介に話を訊いた。
■ コロナをきっかけに「音楽は手放せないと確信」──映画のキャンペーンを含めても、大阪に来られるのは久しぶりではないでしょうか。
記憶にあるのは2015年の『天空の蜂』ですね。アルバム自体も久しぶりですが、アルバムは自分で作って発信してるので、映画のキャンペーンとはまたちょっと違う。映画ではその役についての話が多くなりますが、音楽活動は自分の中からいろんな言葉が出てくるんです。それがすごく新鮮で。
こうして大阪に来たり、ライブもできるので、大袈裟に聞こえるかもしれませんが、音楽をやってよかったと思うぐらい、音楽ならではの楽しみを感じてます。
──20年ほど、俳優に専念されていたそうですね。
コンサートをして、ドラマをやって、レコーディングをやってという生活だったので。30代のときに、俳優業に絞ろうと決めたんだと思います。というのも、明らかにここから俳優業に専念しようと決めたわけではなくて。俳優として、ちゃんと立てるようになった方がいい、何か足りないと思ったんでしょうね。それに加えて、音楽をやってることがすごく負担になった時期があって。
──それは俳優業が忙しすぎたからでしょうか。
忙しすぎたのではなく、もっと自分じゃない役を演じたいというか。若い頃は、自分のパーソナリティだけでできていましたが、企業家や新聞記者、自分がやったことのない、あまり出合ったことのない役や、社会の一員として戦うような役が30代から40代にかけて多くて。集中しないとできない時期もあったんです。
──社会派と言われる映画にも出てらっしゃいましたね。
そうしたら次は、音楽をやるタイミングがつかめなくて。いつから始めようと思いながら、2016年ぐらいにライブハウスへ自分たちで楽器を持ち込んで、3カ月に1回ぐらいライブをやり始めたんです。昔の曲をやってるうちに、今の感覚で歌いたいと思って新しい曲を作り始めて。バンドのメンバーも自分で見つけて、いい感じになってきたところで、コロナになってしまったんです。
──なるほど。
コロナで1度出鼻をくじかれたような感じになったんですが、そういうときだからこそと思って、リモートで何曲か作ったんです。こういうときに瞬発力があるのは音楽なんだと感じて、やっぱり音楽は手放せないと確信しました。
──コロナが気づかせてくれたというか。
そうですね。コロナが明けて、去年がちょうどデビュー35周年だったので、ユニバーサルさんの方からアルバムを作りませんかとおっしゃってくださって、「アルバム作れるんだ!」と思って。コロナ中に書いたものや今まで貯めてきたものもあるので、十分できると思いました。俳優業もやってるので、少し時間はかかりましたが、やっと完成しました。
■ 音楽活動を経て「俳優の現場がすごく新鮮に」──作詞・作曲はどのようにされているのでしょうか。
曲はいつもギターで作りますが、メロディーが出てきます。ちょっとアップめの曲をイメージして弾き始めて、一から作る時もありますし、メロディーが思い浮かぶと携帯で録って。後で聞いて、引っかかったものにAメロをつけたり、大サビをつける場合もあります。
──ブランクはあっても、その感覚は残ってたんですね。
自分では全く違和感なくやってますが、「急に音楽やり始めた」とか、「江口洋介って俳優じゃないの?」と言われそうで(笑)。俺が歌ってたことを知らない人がいることや、もしかしたら知らない人がほとんどだということも踏まえながら、サウンドはもちろん違いますが、前のアルバムの延長線上にあるような曲調を選びました。いきなりレゲエやブルースをやったら驚かれると思うので、ロックを基本にして、少しビルドアップした感じの曲を作りました。
──確かに、以前のアルバムと地続きのような気がしました。今でも『愛は愛で』などは耳に残ってるので、そういう曲の延長線上にあるように感じました。
そう言ってもらえるとうれしいです。
──音楽活動は俳優業にどのような影響がありましたか?
再稼動した時に、自分自身も音楽をやることによって鼓舞されたというか、音楽のパワーをすごく感じたんです。そして、音楽活動をしてから俳優業に戻ったら、俳優の現場がすごく新鮮に感じて。俳優業はずっと連続してやってるので、そこに音楽が挟まるとフラットになるんです。そこから、また俳優業に戻ると、俳優という仕事を客観的に見ることができて、違う視点でやってみようかと思えたんです。
──違うアイディアが生まれてくるような感覚でしょうか。
音楽活動と俳優業、両方に相乗効果があったと思います。
──具体的にはどのような効果があったのでしょうか。
いい意味で、俳優業でも力が抜けたような気がします。気張ってやらなくても大丈夫、リラックスが重要だと、音楽が教えてくれたんだと思います。曲を作るときは大変だけど、プレイするときは抜いてやるので。もしかしたら、芝居もそうかもしれないですよね。それぐらい音楽が好きなんです。
──音楽が好きなことを再認識されたんですね。
もしかすると、昔より今の方がバランスはいいかもしれない。
──今、このときに再稼働するのも必然だったのかもしれないですね。
そういうことをなんとなくイメージしながら走ってきた気もします。7、8年かかって、やっとここに来たのかなって。
■ 俳優として「イメージを壊したくてしょうがなくなる」──俳優に集中していた時期にも、たくさん転機があったと思います。特に、2008年の『闇の子供たち』はすごく印象的でした。振り返ってあそこが転機だったと思う時はいつでしょうか。
今、おっしゃっていただいた『闇の子供たち』は大きな転機でした。日本ではなかなか表現が難しい部分もある社会派映画の主人公のオファーをもらって、今までやってきたエンタメみたいなところからはすごく遠く感じましたが、よくよく考えたら俺もそういう映画を観てきたし、刺激をいっぱいもらってきました。どこかにそういう作品をやりたいという欲求があったんだと思います。
──なるほど。
劇映画で社会的な問題を訴える方法があると教えてくれた作品です。連続ドラマでも、『ひとつ屋根の下』から『救命病棟24時』のように、全く違うキャラクターを自分で選んでるんですよね。イメージを壊したくてしょうがなくなるんです。
──役のイメージを作られたくない、と。
一つの役を長くできる人もいらっしゃいますが、それはすごいことだと思うんです。俺は、コメディから三枚目、シリアスまで全く違うものをチョイスするから。一つのイメージに縛られたくないし、これは俺じゃないと思いたくないと思ってやってると、発見があるんです。
──ヤクザという役柄でも『孤狼の血』と『コンフィデンスマンJP』では、土着のヤクザとインテリヤクザのように全然違ってました。
すごくいい例を言ってもらいましたけど、そうですね。例えば、ヤクザの役でもコメディだったら『ゴッドファーザー』のパロディを意識して、観直したり。『孤狼の血』は、『仁義なき戦い』シリーズを観ました。役によって、今まで観てなかったものを観たり、観たことがあったらもう1度観直しますが、そういう作業が肥やしになるんだと知ってから、よりいろんな役をやりたいと思うようになりました。
──そういう視点で役を選んでらっしゃるんですね。
振り返ってみると、ちょっと難しいかな?と思った役の方が転機になってると思います。
──音楽活動と俳優業の違いはどんなところでしょうか。
音楽は自分発信なんです。俳優業は、原作を読んでディレクターや監督に持っていくこともありますが、そうじゃない場合は、俳優は最後に入っていくんです。ロケハンから何から準備を全部スタッフがやってくれて、ライトとカメラをセッティングして、やっと俺たちが来て、テイクを撮っていくという壮大な流れ作業の最後の部分なんです、言ってみれば。
──そうですね。
音楽は、何にもないところからギターでメロディーを作って、言葉を当てながら作詞をして、そうやって積み上げたものをライブでやると、ファンの方が盛り上がって手を挙げてくれて、聞き入ってくれる。違うベクトルの満足感があります。
──俳優業とはまた違う満足感があるんですね。
それが音楽をやめられない理由です。まだやり尽くしてないことはいっぱいあるので、1枚作ればまた次に行けると思って。もちろん、このアルバムを届けたいというのが第一ですが、もっともっとという欲も出てきてますね。
──全く違う、レゲエみたいなジャンルにいくかもしれないと。
そうですね。そういう気持ちになってます。これも、ターニングポイントというか。
──江口さんは90年代からずっと俳優として活躍されてますが、ご自身に求められるものに変化は感じてらっしゃいますか。
自分ではあまり感じてませんが、その辺は、観てる人の方が感じてくれるものかもしれないですね。年齢も重ねて、経験もあるので、こういうことを求められてるのかな?と意識はしてます。今年の5月に公開された『からかい上手の高木さん』では、学校の先生の役はあまりやったことはなかったですが、新鮮でした。
──そんな風に感じながら演じてらっしゃるんですね。
2022年に公開された『線は、僕を描く』で言うと、水墨画のことは全く知らなかったんです。「そういえば襖に書いてあるな」というぐらいで。水墨画を習いに行ったんですが、先生の話が面白くて。「まず線を書いてください」と言われて書くと「あ、そういう方ですか」とおっしゃるんです。水墨画の先生になると、線で人を判断できるレベルまでいくんだと思って、知らない世界を知れることが面白くて。
──なるほど。
俳優をやっていると、一つのことに真正面から取り組んでる方に会えるのが本当に面白い。音楽もそうです。ミュージシャンでも、昔から変わらずにドラムだけで家族を養ってる友だちもいて。一つのことをずっとやり続ける職人のような、こだわりのある方にすごく感化されるんです。
──音楽をやってることが俳優業にすごくいい影響があるんですね。
ありますね。例えば、その場面のトーンがわからなくて迷った時は、ディレクターに「どんな曲がバックに流れますか?」と聞くこともあります。そうすると、客観的に自分なりに考えることができるんです。芸術の大元は音楽なんじゃないかな。
──芸術の根底にあるというか。
同じ芝居でも、全然違う音楽をかけると、全く違うように見えますよね。試写で完成作を観る時は、監督の音楽のつけ方がすごく気になります。
──撮影してるときはわからないですもんね。
そうなんです。最近の作品で言うと、Netflixの『忍びの家 House of Ninjas』はアメリカ人の監督で。忍者の家族の話に、ニール・ヤングの『CrosbyStillsNash & Young』の『Our House』をかけちゃう感覚は、日本人にはないじゃないですか。
──そうですね。
アメリカのスタンダードだけど、そんな風に家族を表現されると楽しくて。異文化の人と仕事をすることも刺激があるんですよね。そこは俳優をやってて面白いことだと思います。
──江口さんの根底には、ずっと音楽があったんですね。
ミュージシャンのドキュメンタリーを観るのも好きでしたね。この人はどんな人だろうと興味を抱いて、昔はYouTubeもなかったので、ミュージシャンのビデオを探して観てました。でも、それは俳優業でも言えることで。この人はどんな作品をやってたのかなと思って昔の映画を観たり。
そう考えると、音楽活動と俳優業に変わりはないですね。表現という言葉を使うのはあまり得意じゃないですが、根底に表現があるんだと思います。言葉では伝えられない、本当はこう言いたいけど、ちょっと恥ずかしいとか、いろんな思いを芝居や音楽で伝えられるんです。
──なるほど。
自分が音楽を聞いたり、映画を観て思ったこと、感じたことを身体や声を使って表現したいんです。それを伝えたいという思いは変わらないかもしれないですね。
■「音楽を通して、お客さんとエネルギーを交換」ライブへの想い──では、音楽活動の一番の魅力というのはどのようなものなのでしょうか。
例えば、昔作った曲からメンバー1人、ギター1人違ったら全く違う曲になるし、俺の歌も変わってしまう。景色が違うというか。そういう意味で言うと、やっぱり音楽は偉大ですよね。
──時代によっても変わりますよね。
変わるでしょうね。自分の好きなサウンドを追求していくと、自分が年を重ねたからこそ生まれるメロディーもあって。柔らかさやグルーブのテンポも全く変わってくるので。自分の軸はブレさせずに、これからも作っていける可能性を感じてます。
映画はなかなかお客さんの顔を見れないので、曲を聞いてもらったり、ライブに来てくれたときのお客さんの顔を見られることが音楽活動で1番嬉しいことかもしれないですね。やっとここまで来て、ライブができて、お客さんがそんな思いになってくれたんだと感じると、それがまた俺のエネルギーになって。音楽を通して、お客さんとエネルギーを交換してるように感じます。
──11月のライブではどんな曲を演奏してくださるのでしょうか。
新しいアルバム『RIDE ON!』の曲はもちろん、昔の曲もやるつもりです。ぜひ、ビルボードライブ大阪にお越しください。
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江口洋介のミニアルバム『RIDE ON!』は10月23日発売。アルバムを引っ提げ、11月6日に「ビルボードライブ大阪」、11月12日に「ビルボードライブ東京」でライブがおこなわれる。
取材・文/華崎陽子 写真/バンリ
(Lmaga.jp)