紙好きに刺さる!兵庫で「戦後西ドイツ」のデザイン展 約50年前・ミュンヘン五輪の貴重な作品も

いまだに街を歩けば展覧会やライブなどのフライヤー類、いわゆる紙ものを持ち帰ってしまうタイプの人間にとって、現在「西宮市大谷記念美術館」(兵庫県西宮市)で開催中の『戦後 西ドイツのグラフィックデザイン展』はよだれの出るような展覧会だった。

展覧会タイトルどおり、戦後からドイツ統一の1990年までの西ドイツのグラフィック表現を集めた同展。一見、鑑賞者にとっての接点を見出しづらいテーマかもしれないが、紹介されているのは歴史的な資料というよりは、現代にも通じるようなヴィヴィッドなグラフィック揃い。約130点のポスターを中心に、小冊子や雑誌、切手、フライヤーなども約250点を見ることができる。

同館の学芸員の下村朝香さんが実際にドイツを訪ねて、グラフィックデザイナーで研究者でもあるイェンス・ミュラー氏のコレクションを確認、日本に持ってきたという形の展覧会となっている。

■ ミュンヘン五輪のデザインにシビれる展覧会の冒頭はドイツデザインへの導入的な内容で、「ルフトハンザ航空」のような見知ったロゴも紹介されているのだが、のっけから驚かされるのが1972年の「オリンピック」にまつわるデザイン物一式。ポスターからさまざまなパンフレット、各競技のピクトグラムまで、シャープなデザインワークを見ることができる。

ミュンヘン・オリンピックのデザインをディレクションした人物、オトル・アイヒャーはその後、自身が事務所を構えたドイツ南部の小さな街のブランディングプロジェクトにも関わったそうで、「当初は物議を醸したビジュアルであったが、その先鋭的なデザインは現在にも通用し・・・広く親しまれている」という顛末も興味深いものだった。

展覧会全体としては、年代順や作家別の展示ではなく、「幾何学的抽象」「イラストレーション」「写真」「タイポグラフィ」というデザイン要素別の章立てで、その中にいくつかの小トピックが組み込まれている。

たとえば、「キール ウィーク」の話。現在も開催されている世界最大規模のセーリングのフェスティバルだが、これがヨーロッパ中に知られたデザインコンペともなっていて、実際、展示されている数々のデザイン物は質の高いものばかりだった。

■ 今なおクール、映画ポスターも数多く4章立ての構成のうち、個人的にとても惹かれたのが、写真を積極的に使ったデザインを紹介するところ。フォトモンタージュのような芸術写真などの影響もあって、とても意欲的で実験的だと感じられるデザインをいくつも見ることができた。現代のポスター表現ではあまり目にしない、フレッシュな写真活用ぶりが今の目で見てとても新鮮だった。

そして、展覧会を丁寧に見ていると、何度も目にするひとりのデザイナーの名前に気付く。ハンス・ヒルマン。ドイツを代表するデザイナーにしてイラストレーターで、とりわけ、数々の映画ポスターはそのすべてがアイデア豊かで見飽きない。出品された作品点数も多い。

そもそも今回の展示は、冒頭に説明したようにイェンス・ミュラー氏の1万点を超える「A5コレクション・デュッセルドルフ」がもとになっていて、パブリックなコレクションというよりも、ミュラー氏が仕事をする中で集まってきたもの、集めた個人的なアーカイブで構成されている。ミュラー氏の趣味嗜好とまでは言えないかもしれないが、彼の仕事部屋にお邪魔してコレクションを拝見しているような親密さもどこか感じられる。

最後の部屋では、そんなイェンス・ミュラー氏へのインタビュー映像も上映。そこで目にするミュラー氏が想像以上の若さ(1982年生まれ)だったのはさておき、実際に出会った何人かのデザイナーとの思い出も紹介されていた。80代のハンス・ヒルマンに25歳で出会って意気投合したなんてイイ話もあって、根っからのデザイン好きって感じだ、ミュラー氏。

「西宮市大谷記念美術館」では1~2年に一度のペースで開催されるデザイン系の展覧会。なんといっても、この美術館には今竹七郎のコレクションがあるのだ。今回も常設展示室には今竹七郎のデザイン作品が並び、企画展で目にした西ドイツデザインと見比べてみる楽しみもあり。

会期は2025年2月24日まで。水曜日と年末年始旧館、観覧料は一般1200円、大高生600円。京都dddギャラリーでは同じコレクションからなる展覧会『アイデンティティシステム 1945年以降 西ドイツのリブランディング』を開催中。こちらは2025年1月13日まで。

取材・文・写真/竹内厚

(Lmaga.jp)

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