たった7坪から人気パティスリーに、移転で広さ10倍 16歳でパティシエの道へ「きっかけは母の手作りケーキ」
大阪・十三の行列店「 Patisserie Touchez du bois(パティスリー トゥシェドゥボワ)」(大阪市東淀川区)が、移転リニューアル。大阪で注目のパティスリーが、約10倍規模のサイズとなった。
十三では、たった7坪、駅からも決してアクセスがいいとはいえない場所だったが、遠方から訪れる人が続出していた同店。今回の移転で70坪となり、「7年前の25歳のときに10月1日に店を始めて、今回の新店舗も同じ日に。これまで狭くてできなかったことも、ここであれば実現できます」と話す、オーナーパティシエの狩野智さんに取材した。
■十三で最初はまったく売れず…
「家庭がそんなに裕福ではなかったので、誕生日ケーキなどのお菓子は母の手作り。それがおいしくて、うれしかったですね。特にバニラエッセンスの香りが大好きでした。小学生の頃から、自分でも作りたい、町に根ざしたケーキ屋さんになりたいと思い続けて、16歳にはパティシエとしてのキャリアを歩み出しました」
大阪のパティスリーで経験を重ね、東京のホテルやパティスリー、レストランで研鑽を積んでいった狩野さん。独立当初はオンライン販売や卸しからスタートし、店のオープン直後は今となっては想像できないが、売り上げが厳しく、ごはんを食べられない日々もあったそう。注目されたきっかけは阪急沿線の情報メディア「TOKK」での取材掲載、その後「阪急うめだ本店」の催事へ出店とつながり、バレンタインやスイーツフェアで人気に。そして、お店へ訪れるお客も次々と増え、行列が当たり前となっていった。
お店では、生ケーキ、焼き菓子、チョコレート、コーディアル(ハーブやフルーツなどを漬け込んだ濃縮ドリンク)などさまざまな商品を展開し、「小麦粉も各種準備して何度も配合を試し、ケーキごとに目指す食感の生地を作り上げます。リキュールやハーブを使うのが好きで、季節ごとに自分で漬け込み、生菓子の風味に使ったり。何事も、ア・ラ・メゾン(自家製)が大事!と思っています」。
数々のお菓子のなかでも狩野さんにが大切にしているスペシャリテは、「ノスタルジー」(820円)というケーキ。思い出のバニラエッセンスから着想を得て、シェフが自ら、さや付きバニラを漬け込んで作る自家製バニラエキストラクトを使用。バニラとマスカルポーネチーズのムース、バニラのガナッシュ、バニラ香るパンドジェンヌ(アーモンドを使ったフランス菓子の一種)、マカダミアとバニラのサクサクした焼き菓子・クルスティアンと、さまざまなパーツが層として重なったバニラ尽くしに。さまざまな食感、口どけとともにバニラの香りがやさしく、口いっぱいに広がっていく。
ほかにも、シャンパンをブレンドしたのパブロヴァ(メレンゲ生地)の中に黒イチジク、ビスキュイ生地にスパイスを忍ばせた「シャルロット」(760円)、ほおばった瞬間から広がるローズゼラニウムの香りが印象的「ピュイダムールゼラニウム」(540円)など、狩野さんの技が活かされたラインアップに。
当日訪れていた大阪市30代の女性は、「十三のお店にはよく行ってました。東三国に住んでいるのでより通いやすくなりました。ケーキの見た目の美しさと味が好き」と話してくれた。そして、そんな生菓子とともに人気を集めるのは、カヌレ・ド・ボルドー、クイニーアマン、ファーブルトンなどのフランスの地方に伝わる焼き菓子やパイが並ぶヴィエノワズリーの棚。特にカヌレは、次々と売れては補充されていく。「同業者から、こんなに人気があるの?と驚かれることもあります」と、焼き菓子ファンも多い。
■まだまだ序章、これからいろんな企画を
今回、取材時に厨房やストックルームなども見学させてもらい、チョコレート専用の部屋、10種以上の銘柄の小麦粉が並ぶ部屋、リキュール、ポートワイン、仕込んでいるハーブのシロップ漬けなどがズラリと並ぶ棚など(これまで十三の店は狭すぎて、倉庫を複数借りていたそう)、バックヤードが驚きの広さ! ここからどんなお菓子が生まれてくるのか、ますます楽しみになってくる。
今後はギフト用の焼き菓子のアソートの充実、一枚板の巨大テーブルを設けて、イートインも予定と、狩野智シェフのアイデアは尽きない。「やりたかったこと、いろいろチャレンジできる空間になれば。例えば、モーニング、作りたてのアシェット・デセールやデザートコース。いろんなジャンルのシェフと一緒にイベントなど、どんどん企画していきたいと思っています」。
テイクアウト用のドリンクとして、マロンラテ(600円)、洋梨の果汁100%のル・レクチェジュース(800円)の販売もあり、季節によりメニューは変動。阪急上新庄駅から徒歩約14分、大阪メトロの今里筋線の瑞光四丁目駅から徒歩約9分。営業時間は、11時~19時。定休日に関してはインスタグラム(@)で確認を。
取材・文・写真/いなだみほ
(Lmaga.jp)