蜷川実花が魅せる「京都ならではの個展」とは? 異界につながる世界を表現
「京都市京セラ美術館」(京都市左京区)で開催中の展覧会『蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影』。写真家・映画監督の蜷川実花が記者発表会で、京都や作品づくりへの思いを語った。
■ 京都は「異界につながる穴があるような土地」「没入型絵巻体験」として、「光と影」にフォーカスし、立体展示や映像によるインスタレーションなど、京都の街からインスピレーションを受けた10作品を鑑賞できる同展。現実の京都から虚構へ誘われる構成で、4000本以上の彼岸花で埋め尽くされた道など、鑑賞者の心象風景を呼び覚ます「異界めぐり」の空間が展開される。
京都国際観光大使も務め、数え切れないほど京都を訪れているという蜷川は、「京都で開催する意味がテーマに深く関わっています。実際の京都の映像も使っていますが、来て感じたことやこの土地が持っている歴史、その中での『命のゆらめき』などを作品に入れていきたい、とスタートしました」と話す。
京都の街めぐりでは、東山・五条の江戸初期からの墓で埋め尽くされたエリアから、観光客の人波が押し寄せる清水寺など「生と死」の対比を感じられる経験も。「ぽこっと異界につながる穴があるような不思議な探索で、現実とそうでないものが背中合わせにある土地」といい、「元々『相対するものがゆらめきながら重なる瞬間』に執着してきたので、それらを体感できる展覧会になっています」と明かした。
■ 異界を通して「自分の中を旅する体験に」蜷川作品といえばビビットな極彩色の印象が強いが、年々、写真だけでなく映像やアートなどの三次元作品も幅広く手がけることで、一層「光と影」を意識するように。同展では「光彩色」「影彩色」で表現した空間が広がり、「強い光のあたる所には濃い影が落ちる。今回は影の中の美しさもフォーカスし、両方があるからこそ世界は美しいし、間違いがあるからこそおもしろいのではないか」との思いをこめたそう。
鑑賞者が作品の中に入り、主人公になれるような空間も展開され、煌めくクリスタルガーランド(吊り装飾)は10万個のパーツを手作業でつないだ力作。自らが1本ずつデザインし、約1万個のパーツは手作りしたもの。作品づくりについて「明確な物語というより、感情を揺さぶれたら、というグラフは考えます。コース料理を組み立てる感じで、1つずつを作りこみながら、全体でどんな感動をもたらせれるか。来てくれた方がそれぞれの物語を紡げるように」とのこだわりも。
同展の心臓部という作品『ドリームズ・オブ・ザ・ビヨンド・イン・ザ・アビス』は、2空間から成り、手前の楽園のような花園を抜けると映像の部屋へ。天井と床の鏡にも美しい自然風景が映し出され、天国や奈落といった死後の「黄泉」を彷彿とさせる。蜷川は「1番現実と遠いような場所。ここから抜けて現実に戻った時に、世界との接し方やものの見方が変わったり、自分の中を旅するような体験になれば」と呼びかけた。
同展は「京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ」にて、3月30日まで開催(休館日あり)。時間は朝10時~夕方6時(入場は夕方5時30分まで)。料金は一般2300円ほか。
取材・文・写真(一部)/塩屋薫
(Lmaga.jp)