朝ドラ『おむすび』最終回直前、制作統括に独占インタビュー 阪神・淡路大震災から30年の今年に伝えたかったこと

連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)がいよいよクライマックスをむかえた。結(橋本環奈)をはじめとする登場人物たちは、物語の終わりにどんな答えを見つけるのだろうか。最終回直前に制作統括の宇佐川隆史さんに独占インタビューし、2年半にわたる朝ドラ制作を振りかえってもらった。前後編の前編(取材・文/佐野華英)。

■ 阪神・淡路大震災から30年の年、平成を振りかえることにこだわった──2022年秋から企画がスタートしたという『おむすび』。2年半の朝ドラ制作期間を終えて、今の率直なお気持ちをお聞かせください。

「あっという間だった」という気持ちと、「この年に放送できてよかった」という思いですね。阪神・淡路大震災から30年という2025年に「伝えなければならないこと」には、なんとしてもこだわりたくて。それを最後まで貫き通せたことがありがたかったです。

──制作発表の段階から伝えられている「主人公・米田結が目には見えない大切なもの(縁・人・時代)を次々とむすんでいく、平成青春グラフィティ」というテーマ。どんな着想からはじまったのでしょうか。

制作が開始した2022(令和4)年頃は、いろんなところで「平成とは何だったのか」という総括がされはじめていた時期。私と脚本家の根本ノンジさんで「平成を振りかえるのは面白いかもしれない」と話したことがスタート地点です。

■「失われた30年」という紋切り型の言葉へのカウンター──当時、平成を総括して「失われた30年」というワードが飛び交っていましたが、この言葉に対する反発のような気持ちもあったのでしょうか。

そうですね。確かに平成はバブルがはじけて景気が低迷し、阪神・淡路大震災があって、地下鉄サリン事件や、世界ではテロや戦争があり、そして東日本大震災が起こった。受難の時代でした。

そうした社会不安は、令和に入ってからも地続きです。物価が上昇し、コロナという未曾有のパンデミックが起こり、世界各地で紛争・戦争が起こって、「お先真っ暗」だと言われ続けています。

しかし、そんな時代のなかで本当に私たちはすべてを失ったのだろうか。大変な時代でしたけれど、それでもどうにか頑張って、今ここにいる。私たちが確かに生きてきた証を「なかったこと」にしないでほしいよね、という話を根本さんとしました。

朝ドラで平成を振りかえるのは少し早いかもしれないけれど、「みんな頑張ってきたし、今だって頑張ってるよ」「楽しい記憶だってある」ということ描くことで、今に伝えられるメッセージがあるかもしれない。やる意義はあると思いました。

■ 老若男女が観る朝ドラだからこそ、描く意味がある──『おむすび』を構成する大きな要素として「平成史」「管理栄養士」「震災やコロナなどの大きな災害」、それから「ギャル」。この4つがありますが、これらはどの順番で決まっていったのでしょうか。

平成という時代を真正面から描くならば、震災は避けては通れない。さらに本作放送中の2025年1月17日に、阪神・淡路大震災から30年の日をむかえる。これをNHK大阪局としてどう捉えるかというのは、大切なことでした。報道番組ではない、朝ドラという小さなお子さんからお年を召した方まで観ていただく枠で扱うことに、大きな意味があると考えました。

同時に取材のなかで、平成という時代は栄養士・管理栄養士という職業の必要性が世に広く知られていく過程であったと知りました。かつて根本さんのご家族が病院の管理栄養士さんにお世話になったという経験も大きかったのだと思います。食と健康、死生観みたいなところを、企画の初期段階で話し合いました。

■ 人は自分軸で生ることで幸せになれる。「ギャル」という題材に託した思い──そして最後に決まった要素が「ギャル」ですか。

ギャルも平成史を取材していくなかで出てきてました。平成という「いよいよ日本が大変なことになってきたぞ」と誰もが思う時代にあって、厚底ブーツで颯爽と歩くギャルという存在は、「暗い」「辛い」と称される時代のカウンターの象徴として面白いのではないかと。

──単なるファッションとしてではなく、「ギャル魂」を作品全体に通ずる幸福論として扱ったのが驚きでした。

SNSでの「いいね」に依存したり、多くの人が他人の評価を気にする今の世の中にあって、取材でお話をうかがったギャルの皆さんが「自分が好きだからやっている」と堂々と言う姿に感銘を受けました。果たして私には今、心の底から「これが好き」と言えるものがあるだろうかと、我が身を顧みました。

何が大切なのか、何が幸せなのかというのは、自分軸で生きることができて、初めてわかる。「自分を大切にする」ということは決してわがままという意味ではなくて、自分にとって譲れない大切なものがあるならば、相手にも同じように大切なものがあるのだとわかる。自分を理解することは、相手を理解し尊重するということなのだという「真理」のようなものを感じ、衝撃を受けました。

自分の好きなことを貫いている人は、相手のためにも頑張ることができる。「失われた30年」と言われる時代のなかで「自分の人生を謳歌するギャルが、人々を支える管理栄養士になる」というコンセプトが浮かびました。

■「あんまり知られていない」管理栄養士という職業──結が管理栄養士を目指すきっかけとなった、西条(藤原紀香)の「この仕事はあんまり目立てへんし、あんまり知られてへんけど、私は誇りに思てる」という台詞が印象的でした。朝ドラの主人公の職業として「目立たない」「知っていそうで知らない」職業を選んだのが『おむすび』なんだなと。

「何をする仕事なの?」というところから取材をはじめて、栄養士さん・管理栄養士さんというのは表立って見えないけれど、私たちの生活に欠かせない存在であることがよくわかりました。たとえば私たちは、「コンビニで昼ごはんを買うなら、バランスを考えてサラダも買い足したほうがいい」ぐらいのことは知っていますが、それも、もとはと言えば栄養士さんが広めてくれた知識なんですよね。

阪神・淡路大震災が起こった1995年は「ボランティア元年」と呼ばれていますが、その頃は栄養士だけの災害派遣チームがまだ存在せず、取材をした管理栄養士さんたちが「十分な支援活動ができなかったのが悔しい」と口々におっしゃっていて。その16年後に起こった東日本大震災でも、佳純(平祐奈)が経験したように、まだ過去の経験が十分には活かせなかった。そうした苦労があって、ようやくかつての経験を活かした「JDAーDAT(日本栄養士会災害支援チーム)」が設立されました。

■ 佳純が言われた「メシの話は後だ」は実話──大きな災害を経るたびに、栄養士・管理栄養士の重要性が知られるようになったんですね。

3.11直後の東北各地の避難所でも「栄養のことは後回し」といった風潮は残っていて。気仙沼の避難所に赴いた佳純が医療チームのひとりから「メシの話は後だ」と言われますが、あれは取材した管理栄養士さんが実際に言われたそうです。取材を始めた初日にそのお話を聞いて、これは描きたいと思いました。

またコロナ禍では、自宅で療養する感染者の方たちに各自治体から「療養セット」を詰め合わせたダンボール箱が送られましたが、あの中身を決めたのも管理栄養士さんでした。平成から令和にかけて起こった幾多の災害で、縁の下の力持ちとして私たちを支えてくれていたのが栄養士さん・管理栄養士さんだったんです。

──平成史、管理栄養士、震災・コロナという災害、ギャルというバラバラのピースがひとつところに集まってきたと。

取材を続けながら立てていた仮説が、どんどんつながってきたんです。そうした題材を紡ぎながら、支え合い生きていく人間本来の力、レジリエンス(困難に直面したときに立ち直る力)を描くことはできないだろうかと思いました。(後編に続く)

(Lmaga.jp)

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