イチロー凱旋セレモニーなぜ実現? 退団から5年-敵地で異例企画の仕掛け人に聞く
デイリースポーツ取材記者の心に響いた感動話などを取り上げる「番記者の心」。今回はMLB担当・小林信行記者が、マーリンズ・イチロー外野手(43)のシアトル凱旋(4月17~19日)にまつわるエピソードを紹介します。古巣マリナーズの本拠地・セーフコ・フィールドで開催されたメジャー通算3000安打を祝福する式典は、敵軍選手に対しては異例のこと。今回の企画の仕掛け人の一人、マリナーズのケビン・マルティネス・マーケティング本部長にその思いを聞いた。
もしかしたら、今回のイチローの凱旋を一番喜んだ人かもしれない。マリナーズのマーケティング部本部長のケビン・マルティネス氏のことだ。
4月17~19日にシアトルのセーフコ・フィールドで開催されたマーリンズとの3連戦。同氏によると、イチローが昨年8月に達成したメジャー通算3000安打の偉業を称える式典などについて球団内で話し始めたのは昨年の夏だったという。
「MLBが発表した2017年の日程を見た時にイチローが来ると分かって興奮しました。どんな形でお祝いすべきかを考えました。マーリンズとイチローに趣旨を伝え、許可をいただきました」
イチローがマリナーズからヤンキースへ移籍したのは12年7月のこと。5年も前に所属した選手への思いがこれほどまでに強いのは、同氏がイチローを「シアトルに降り立った日から知っている」からに他ならない。
活動の場は異なるが、球団の一員としてイチローをサポートしてきた。新庄とともにメジャー史上初の日本人野手の重圧を乗り越え、数々の記録を打ち立ててきた姿を間近で見てきた。当然、その裏にある苦労も聞いていたに違いない。「私にとってイチローは『特別な人間』。大好きな選手の一人です」。2人を結ぶ強い絆がはっきり見える。
準備に約6カ月の時間をかけた。第1戦の試合前に行われたセレモニーには、共同オーナー陣が勢ぞろい。名場面を集めた1分34秒の映像も披露された。最終第3戦では限定イチロー首振り人形が入場者に配布された。平日のデーゲームにもかかわらず、早朝5時半に一番乗りした夫婦をはじめ、会社や学校を休んだ熱狂的ファンが長蛇の列をなした。
イチローが今なお、シアトルから愛されていることを実感した3日間。最終打席で今季1号の“御礼弾”を放ったイチローも試合後に「感激しました」と言っていた。
「いつかマリナーズに戻ってきてほしい」-。マルティネス氏は自身の立場を考慮してはっきりとは言わなかったが、そんな思いが言葉の端々から伝わってきた。