大谷翔平 ジャッジとのし烈なMVP争い カギは「WAR」が握る?

 「WAR」。英語で「戦争」を意味する物騒な単語だが、大リーグでは非常に重要な意味をもつ、選手を評価する指標の一つだ。

 「Wins Above Replacement」。略してWAR。そのポジションの代替(Replacement)が可能な選手から上積み(Above)した勝利数(Wins)を意味する。要は選手のチームの貢献度。もう少しかみ砕けば、レギュラーではない控え選手のチームにおける貢献度を0とし、各選手の打撃、投球、守備、走塁を総合的に評価し、数値化する。算出法はとても複雑で、複数の米データサイトが独自で行っているが、一般的にレギュラー野手、ローテーション投手の平均値は2と言われている。ここでは米スポーツ専門局ESPNも採用しているBaseball Referenceの数値を引用する。

 WARが非常に重要な意味をもつ理由は、シーズン後に発表される各賞を選出するにあたり、投票権をもつ記者の多くがWARを重視しているからだ。

 記憶に新しい、昨季のア・リーグMVP争い。結果は、投打で歴史的な活躍を見せたエンゼルスの大谷翔平投手が満票で日本選手では01年のイチロー以来、20年ぶり2人目の快挙を成し遂げた。打者として46本塁打、100打点、26盗塁を、投手としては9勝、156奪三振をマーク。唯一無二の二刀流選手として好成績を挙げ、大きな衝撃を与えた。

 最大のライバルと目されていたブルージェイズの若き主砲、ゲレロは本塁打(48)と得点(123)のほか、出塁率(・401)、長打率(・601)、OPS(1・002)でリーグ最高の数字を挙げ、ロイヤルズのペレスは守備の負担が大きい捕手でありながら、本塁打(48)と打点(121)の2冠を獲得した。

 それらの数字は大谷の成績を上回るものだったが、WARを見れば一目瞭然。大谷の9・0(打者4・8、投手4・1)に対し、ゲレロ6・8、ペレス5・3。WARがそのまま投票に反映されていた。

 今シーズンのWARは、ヤンキースのジャッジが7・7でトップを走り、大谷が7・3(打者3・0、投手4・3)で追う展開。3位のヒメネス(ガーディアンズ)は5・5。ア・リーグのMVP争いが大谷とジャッジの一騎打ちと言われている理由がここにもある。

 大谷の打撃成績は打率・269、30本塁打、82打点、11盗塁。投手では11勝8敗、防御率2・69、128奪三振。1918年ベーブ・ルース以来、104年ぶり、史上2人目の「2桁勝利、2桁本塁打」を達成しただけでなく、8月31日のヤンキース戦では前人未踏の「10勝、30本塁打」も成し遂げた。攻撃力は昨季を下回るが、二刀流としてのパフォーマンスは昨季以上と言っていい。

 一方のジャッジは打率・296、51本塁打、113打点、15盗塁。本塁打では2位以下に20本差をつけて独走し、打点、得点(104)、長打率(・664)、OPS(1・062)でもメジャーの頂点に立っている。現在の年間本塁打ペース63本を維持すれば、ルースの最多記録60本だけでなく、1961年に61本を打ってルース超えを果たしたマリスの持つ球団記録を61年ぶりに塗り替えることになる。

 メジャー1年目の17年に52本塁打を放ち、タイトルを獲得したジャッジ。WARはリーグトップの8・0をマークしたが、MVP投票ではアルトゥーベ(アストロズ)に大差をつけられての2位だった。のちに発覚するアストロズの球団ぐるみのサイン盗みの犠牲者と言われている。投票権を持つ記者もその悲劇を忘れてはいないだろう。

 MLBネットワークがこのほど公式ツイッターで実施したファンによるMVP投票の結果はジャッジ58%、大谷42%。ヤンキースはメジャー屈指の人気球団であり、メディアの露出も多い。ア・リーグ東地区の首位を独走していることもジャッジにとっては追い風になっていることは明らかだ。

 劣勢の感は否めない大谷だが、2年連続40本塁打、さらには、あと34イニングに迫っている規定投球回数をクリアし、史上初のW規定到達を成し遂げることができれば、記者の票が確実に伸びる。

 シーズン最後の1カ月。大谷がどこまで数字を積み上げることができるか、そして、ジャッジとの「0・4」の差を埋めることができるのか。MVP争いはさらに激しさを増す。(成績は9月1日現在)

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