侍ジャパンを最も苦しめた投手 メキシコ・サンドバルが日本戦を語る「つらい負け方。泣いている選手いた」

 準決勝・日本との激戦を振り返ったサンドバル(撮影・小林信行)
 笑顔で取材に応えるサンドバル(撮影・小林信行)
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 日本代表の3大会ぶり3度目の世界一で幕を閉じた第5回WBC。メキシコ代表のパトリック・サンドバル投手(エンゼルス)は日本代表、そして、同じく決勝に進んだアメリカ代表を最も苦しめたピッチャーと言っても過言ではないだろう。大谷翔平、ミゲル・ロメロ(キューバ)2投手とともにベストナインに相当する「オール・トーナメント・チーム」に選出された左腕が激戦を振り返った。

 胸が張り裂けそうだった。

 1点リードの九回裏無死一、二塁。村上が放った打球が中堅トーマスの頭上を越えていくのを、サンドバルはベンチの右端、一塁ベースに近い階段に座って見ていた。

 「つらい負け方だった。泣いている選手もいた。準決勝に進んだのは初めてだったし、メキシコからたくさんのファンが応援に来てくれていた。僕たちにとっては大きな意味を持つ試合だった。感情的になるのは当然だった」

 20日に行われた準決勝の日本戦。サンドバルの先発登板が発表されたのは3日前の17日だった。ヒル監督がプエルトリコとの準々決勝の試合前会見で明らかにした。

 「すごくわくわくしていた。あの打線に投げることが本当に楽しみだった」

 サンドバルは11日の1次ラウンドC組第2戦のアメリカとの試合でWBCデビューを果たした。3回、55球、2安打1失点。小気味よいピッチングで大会屈指の強力打線を最少失点に抑え、圧勝劇を演出した。

 8日間の調整をへて迎えた日本との一戦。プエルトリコ戦で4点差をひっくり返して逆転勝ちしているメキシコは意気揚々と決戦の地に乗り込んできた。

 一回、先頭ヌートバーへの初球が地面に跳ねた。

 「アメリカ戦も同じだった。初球がワンバウンドになった(笑)。気持ちは高ぶっていたけど、緊張はなかったよ」。

 侍打線にはヌートバー、近藤、大谷、吉田、村上の上位5人と8番源田、合わせて6人の左打者が並んでいた。

 「スカウティングレポートの情報量は少なかった。(捕手の)バーンズとは話し合いながら、自分の強みを生かすためできることを考えた。左打者にスライダーが大きな武器になるのは分かっていた。チェンジアップをしっかり投げられたのも大きかった。速球はいつも以上にきっちりゾーンに投げられた。この3つが組み合わさったことがいい結果につながったと思う」

 初回は三者連続三振の快投。注目の同僚対決、大谷の打席は「正直、あまり覚えていない」と意外な反応。記者が持参した配球表を見ながら「初球が見逃しのストライクで、2球目は…ああそうだった」。フルカウントから見逃し三振に仕留めた外角高めのスライダーを「少し高かったけど大丈夫。外角だから問題なかった」と言った。

 対戦した打者はのべ17人。4回1/3、66球を投げて4安打無失点。四球を1つ与え、6つの三振を奪った。規定では準決勝は95球まで投げることができたが、「70球以上投げさせたくなかったんだと思う」。五回以降も続投していたら試合の結果は変わっていたかもしれない。

 思い出に残る1球。「四回の最後。彼はみんなからムニって呼ばれてるんだよね?」と言って、2死一、三塁、カウント1-2から村上を見逃し三振に斬った外角スライダーを挙げた。その直前のゾーン高めいっぱいのスライダーがボールと判定され、マウンド上で大きなリアクションを見せた。「あれはストライクだった。でも、次にもっといいスライダーを投げられた。三振が欲しい場面。あれはデカかった。かなり気合が入った」。

 印象に残っている打者は意外だった。「しつこかったね」。サンドバルにとって今大会最後のバッターとなった源田だ。3点リードの五回1死一塁の場面。4球連続見送られてカウント3-1になった後、3球連続で投じたツーシームをことごとくファウルにされた。「いい打撃をされた。けっこうなフラストレーションだった。最後にスライダーを厳しいコースに投げようしたが、浮いてしまった」。粘り負け。この試合唯一の四球を出し、お役御免となった。後続が倒れ、侍ジャパンは好機を生かすことはできなかったが、サンドバルに球数を投げさせたことでメキシコの継投策が前倒しになった。源田の“殊勲打”だった。

 試合後のサンドバルに涙がなかったのは、充実感がくやしさを上回っていたからだろう。「メキシコは本当に楽しいチームだった。雰囲気もすごく良かった。正直なところ、自分もそうだけど、アメリカで生まれ育って、スペイン語がうまく話せない選手がたくさんいた。最初はどうなることかと思ったけど、初日にチーム写真を撮った時にすぐに打ち解けることができた。そこで心配は消えた」。一発目の強化試合でガーディアンズに0-6と完敗したが、「ベンチの空気は変わらなかった。冗談を言い合って笑っていた」とサンドバル。「次のロッキーズ戦は圧勝(11-1)したけど、その時も同じ空気だった。その時に特別なチームだと思ったよ」と言った。

 決勝戦は球場に足を運んで観戦した。大谷対トラウトの対決はスタンドから「中立の立場で」見守った。次回、第6回大会は3年後の26年に開催される。「今までで一番楽しい野球だった。もし呼ばれたら絶対に戻ってきたい」。サンドバル対侍打線。また一つWBCの楽しみ方を見つけた。

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