米球界は日本野球をどう見ているか・下

 現在、メジャーは身近な存在だ。テレビの生中継はもちろん、新聞やスポーツ雑誌などで詳しく報道されている。

 メジャーのさまざまな情報が簡単に手に入る時代だが、逆にアメリカ球界は日本の野球をどう見ているのか。

 かつて私は米球界の重鎮に、思い切って疑問点をぶつけたことがある。以前の話(いまから約20年前)になるが、いまでも参考にできると思う。

 質問は4点だった。質問1と2については前回、詳述した。3と4については以下の通りだ。

 (質問を再掲する)

 〈質問3〉「日本の野球は管理された野球だ」と言われます。バントの多用、複雑なサインなどが、その印象を与えているのでしょう。しかし、勝ちにこだわるファン、野球人口の少なさ、体格的にアメリカ選手に劣ることなど考えた場合、そこに日本的野球ともいえる一つのスタイルが生まれるのはやむを得ないでしょう。この違いの影響について。

 〈質問4〉「日本人には宗教がない」と言う人がいます。どうお考えですか。人種が違い、風俗習慣、歴史の違う外国人と日本人が野球に取り組めば、それなりの違いが出てくるのは当然ではないか、とも思うのですが…。

 〈回答3〉日本の野球で強い印象を受けたいくつかのバランスよく調整された分野があります。それによって日本のプロ野球は大きく進歩したと思います。60年代から70年代、日本は米国の大リーグチームに勝てませんでした。

 しかし今では日本のオールスター・チームなら、かなりの成績を収めると思います。私が米軍に在籍していたころ、日本のノンプロや大学のチームと対戦したことがありますが、いまの若手の選手も体力が強くなっているし、投手も力のある速い球を投げるようになっています。

 現在よりさらにレベルアップしようと思えば、いま、ファームは1チームですがこの下に3軍を持つことです。現在のシステムでは、プロ入りすればすぐ上が1軍です。

 また、ファームの選手も競争に負けても、これ以上、下へ落とされる心配がない。激しい競争の中で腕を磨き合うのが強くなる秘訣だと思います。ドラフト1位の選手であっても、まずファームでプロの経験をすることが大切なのです。

 それに、スカウトはもっと仕事に熱を入れて勉強する必要があるように思われます。この選手はAクラスかBクラスか、それを見分ける有能なスカウトの養成が実に大切なことであす。

 また、勝つということに関する深い知識をスカウトは持つべきです。日本ではフロントオフィスに高度の野球技術を身に着けた経験豊かな人材が欠けている場合が多いようです。

 選手の育成部門でも、毎日長い時間をかけて練習しているが、ベースランニングなど間違った方法で教えているのを目にしました。

 また、打撃コーチも選手の体格や技術に関係なく、どの選手にも同じ方法で教えています。

 スローイングやランニングを教えるときも、バッティングやピッチングと同じように(注・基本的には同じ体の使い方をするのだから、スローイングやランニングだけ別の体の使い方を教えるような方法や表現はしない方がいいという意味だろう)教えるべきです。

 私の見たところでは、日本の選手は投げたり走ったりするとき、肝心の力を発揮していない。野球をやるうえで必要な筋肉を十分に使うような体の動かし方がわかっていないからではないかと思います。

 あるいは、ランニングやトレーニングで、陸上専門のコーチに教えてもらっていることも、その原因の一つではないかと思う。

 〈回答4〉さて、日本人の宗教とか信仰ということだが、これはあくまで個人の問題です。ただ、状況によってはそれがチームによくない影響を与えることがあります。

 1970年代の後半のころ、アメリカである宗教活動が起こりました。この活動がひところ野球界にも浸透しはじめて、その影響を受けた結果、選手の勝利への集中心が薄れてはじめたのです。

 試合に負けると、以前なら悔しさを全身に表していたのが、「そうなるべくしてなった。これも神の思し召しである」というわけです。

 私たちは試合で競い合うことに喜びや誇りを持って育ってきた。勝利とはわれわれにとって特別な価値を持つものだったからです。

 間もなく、試合に負けても平気になってきました。これでは監督も困ります。

 あるチームは当時としてはいい選手をそろえながら最下位から抜け出せなかった。チームのほぼ全員が、このの活動に入っていたからです。彼らには勝利よりも信仰が大事だったのです。

 以上の回答文は、日米の野球交流への配慮から儀礼的な部分も感じられるが、この人は元来、ものをはっきりと言う方で、内容のほとんどは氏の印象や見方をそのまま書かれたものだと思う。

 いまから約20年前の質問と回答だが、さて現在、アメリカ球界は日本球界をどう見ているのだろう。機会と時間があったら、また挑戦したいと思う。=この項終わり=

(デイリースポーツMLB解説委員・牛込惟浩)

  ◇  ◇

 牛込惟浩(うしごめ・ただひろ)1936年5月26日生まれ、79歳。東京都出身。早稲田大学を経て64年、大洋ホエールズに入団。渉外担当としてボイヤー、シピン、ポンセ、ローズなど日本球界で大活躍した助っ人たちを次々と獲得し、その確かな眼力でメジャー球界から「タッド」の愛称で親しまれた。2000年に横浜ベイスターズを退団。現在はデイリースポーツMLB解説委員。

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