【野球】学生野球聖地だからこそ配慮を
2020年の東京五輪にともない、神宮球場の使用中止問題が持ち上がっている。東京五輪・パラリンピック組織委員会が同年の5月から半年間、資材置き場やスタッフの待機場所とすることを要望。球場を所有する明治神宮に申し入れた。
もし、要望がそのまま通れば、ヤクルト球団の公式戦、東京六大学野球、東都大学野球のリーグ戦、高校野球東京大会は別球場での開催を余儀なくされる。ヤクルトの試合ももちろん重要。ただ、神宮球場は“学生野球の聖地”であるからこその配慮があってしかるべきだと感じてならない。
そもそもが、大学野球のために建設された由来がある。完成は1926年10月。53万円の建設費は、神宮奉賛会が48万円を負担し、残りの5万円を寄付したのが、25年に結成された東京六大学野球連盟だった。31年のスタンド拡張工事の際には、同連盟が54万円余りを全額負担した。慶大出身で当時学生だった牧野直隆元高野連会長も、工具を手に作業を手伝ったという。
完成直後の26年秋から、東京六大学連盟が使用。30年春からはリーグ戦全試合を行うようになった。45年8月の終戦後はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に接収されたが、同年11月にはいち早く全早慶戦の開催が認められた。46年秋にはリーグ戦の一部で使用再開。52年3月いっぱいで接収期間が終了して以降は現在に至るまで、東京六大学のリーグ戦は神宮球場以外で開催されたことはない。また、そんな過去の経緯があって、今も東京六大学や東都といった学生野球が、優先的に使用できるように配慮されている。
「神宮でプレーしたい」と、口にする学生は数多い。進路として東京六大学や東都に人気があるのは、レベルの高さはもちろん、球場も要因の一つだろう。6月には全日本大学野球選手権、11月には明治神宮大会も行われる。全国の選手も「神宮で戦う」ことをモチベーションにして、各連盟のリーグ戦を勝ち抜いてくる。
また、東京の高校生も夏・秋の大会で試合をするチャンスがある。プレーした経験は、その後の人生で大きな財産になるのは間違いない。
球場自体の改修工事で使用できないというなら仕方がない。だが聖地でプレーできない理由が、他のイベントのための“物置き”にするから、というのは、あまりに切ない。たとえそのイベントが、五輪であったとしてもだ。日本学生野球協会の内藤雅之事務局長は「4年生が最後のリーグ戦を神宮でできないとなれば心が痛む。全国の大学生にとっても、神宮はあこがれの舞台。その時に初めてレギュラーになる選手もいるでしょう」と、学生をおもんぱかった。
日本では高校野球への関心は殊更に高い。例えば、甲子園球場が資材置き場となって、夏の選手権大会ができないとなったら、どうだろうか。一般からも猛烈な反対意見が噴出するだろう。甲子園も元来、高校野球のために建設された球場。神宮と成り立ちは同じだ。
東京五輪の関係者には、この神宮球場問題が、なぜ大ごとになるのか理解できない人がいるという話も出ている。だが、そこは球界の意見に最大限、耳を傾けるべきだ。「スポーツの大会が、別のスポーツの機会を奪うのはおかしい」と憤る球界関係者の言い分は、全くもって正論だと思う。完成から90年。“聖地”としての側面を尊重し、双方が納得する解決案が出ることを願いたい。(デイリースポーツ・藤田昌央)