錦織圭 日本人初の4大大会決勝進出
「全米OPテニス」(6日、ニューヨーク)
“エア・ケイ”が快挙だ!第10シードの錦織圭(24)=日清食品=は、第1シードで世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ(27)=セルビア=に6‐4、1‐6、7‐6、6‐3で下し、日本人選手史上初の4大大会決勝進出を果たした。
ありったけの力で、両拳を突き上げ、雄叫びをあげた。それはテニス界に新たな時代の到来を告げる咆哮だった。世界No.1に君臨するジョコビッチに完勝し、男子ではアジア初にもなるグランドスラムのファイナル進出。「何が起こっているか分からない。人生で初めてのグランドスラムのセミファイナルだったので。いや~もううれしいです」。いつもの淡々とした口調の中にも、興奮は隠しきれないように、声は上ずっていた。
第1セットから錦織の勢いが、世界1位を飲み込んだ。第3ゲーム、好機を逃さず、強烈なダウンザラインを決め、ブレークを奪うと、すぐさまブレークバックされたが、第7ゲームには神がかったリターンを連発し、再びブレーク。その後もジョコビッチを寄せ付けず、6‐4で先手を奪った。しかし、第2セットは、ジョコビッチが反撃。1‐1から2ブレークを含む5ゲームを連取され、1‐6で落とした。
それでもここからが4回戦4時間19分、準々決勝4時間15分の激闘を制し、現地紙から“マラソンマン”と呼ばれる本領発揮だった。第3セット、第8ゲームにブレークを奪ったが、第9ゲームにブレークバックされる一進一退の展開。世界最強といわれる男、そしてグランドスラムのファイナル進出という重圧に苦しみながらもタイブレークに持ち込むと、攻めの姿勢を崩さず、ジョコビッチを圧倒。第3ゲームを奪いきり、決勝に王手を懸けた。
そして、錦織の放つオーラは、会場すべてを飲み込んだ。第4ゲームに入ると、ジョコビッチがサーブミスを連発。第1ゲームにいきなりブレークを奪うと、第2ゲームは0‐40から怒濤の巻き返しでキープ。そこからはもう付け入るスキを与えなかった。「世界最高のプレーヤーに勝てて、内容も凄く良かった。最後まで振り切れた。最高のプレーができました」。
奇跡のような快進撃だ。大会前は出場すら危ぶまれた。8月4日に右足親指裏にできた腫れ物を切除。予定していた8月の2大会を欠場し、回復に努めた。決して練習が万全に積めたわけではない。「体力的には正直不安もある」。素直な気持ちだった。
それでも逆境は常に錦織を進化に導いてきた。09年には右肘を手術し、着実に積み上げてきた世界ランクを失った。過酷なツアーを戦い抜く中で、フィジカルに劣る錦織には常にケガがつきまとった。ただ、苦難から立ち直る度に、錦織のテニスはそのキレ味を増してきた。今季も持病の腰痛や、左股関節痛に苦しみながら、日本人初の世界ランクトップ10入りを果たした。今回もまたその“不死鳥”ぶりは健在だった。
次は日本人未到の地、グランドスラムファイナルの決勝。もはや悲願の初優勝は手の届くところにある。「決勝でも気持ちを揺るがすことなく、強い芯をもってやりたい。まだ力は残っている」。会場には元NBAのスーパースター、“エア・ジョーダン”ことマイケル・ジョーダン氏が試合を見届けた。世界の頂に、その手を掛けた時、“エア”の第一人者は、24歳の日本人へと継承される。