白紙撤回で費用負担は誰が? 五輪エンブレム問題
佐野研二郎氏(43)がデザインした2020年東京五輪・パラリンピックの公式エンブレム白紙撤回の波紋が広がっている。商標などの問題に詳しい専門家は「騒動で価値が下がったエンブレムの撤回は妥当」と話すが、発注済みの備品を抱える東京都は、大会組織委員会などへの費用請求を検討する構えを示す。損害賠償などの法的措置も含めスポンサー企業の対応も注目される。
7月発表の佐野氏のエンブレムについて、ベルギーの劇場ロゴを制作したデザイナーは「酷似している」と主張。劇場とデザイナーが、国際オリンピック委員会(IOC)に使用差し止めを求める訴えを地元裁判所に起こす事態となった。
「この訴訟の対応だけでも、大会組織委員会にとっては大きな負担だったはずだ」と話すのは、弁理士の資格を持つ早瀬久雄弁護士。「もし使い続けて、問題ありと訴訟で判断された場合、リスクは計り知れない」とし、撤回を肯定的に受け止める。
ただ既に佐野氏のエンブレムはポスターや広告などに使われており、これまでの制作費や、想定外の撤回による差し替えなどの費用負担をどうするのか、東京都やスポンサー企業の対応が今後の焦点となる。
発注済みの関連備品が約4600万円分に上る東京都。このうちパラリンピックガイドの企画編集・印刷費は約2千万円、バッグ型クリアファイルの買い入れは約900万円、のぼり・横断幕の買い入れ約500万円、ポスターの印刷代約290万円などとなっている。
舛添要一知事は1日の取材に「掛かった費用が請求できるのか。できるとすれば誰にすればいいのか」と強い口調で訴えた。都担当部局の幹部は「現段階で法律的な検討ができていない」としながらも「組織委に請求できるかどうかを含め検討していきたい」。
ある弁理士は「五輪本番直前の撤回であれば、スポンサー企業にとって十億、百億円単位での大損害が出ただろうが、このタイミングならそれほどの損害が生じたとは考えにくい」と指摘。
ただ著作権に詳しい福井健策弁護士は「今回の撤回によってスポンサーが宣伝経費などを組織委に賠償請求する法的リスクが生じた」と話す。佐野氏側の法的責任については「経費補填やイメージの低下を理由に、組織委が佐野氏に賠償請求する可能性は残るが、実際には困難かもしれない」と推測した。