「SW」と「ガルパン」の共通点
世界中で大きな話題を呼んだSF超大作「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(以下SW)と女子高生たちが街中で戦車戦を繰り広げるアニメ「ガールズ&パンツァー劇場版」(以下ガルパン)。まったく接点のないような2作だが、実は4DXで上映されたという共通点があった。これは見るしかない…ということで、4DXにおける両作品をくらべてみた。
4DXとは「3Dの先にある劇場」を表現したもの。前後左右に揺れ、時にはマッサージ器のように背中やお尻をつついたりもする座席。前後から「シュッ」と風が吹いてきたり、霧状の水が飛んできたりするなどさまざまな効果が用意されている。昨年公開された「ジュラシック・ワールド」では多くの観客が恐竜の世界を“体験”した。
「SW」でウホッとなったのはやはり、ハン・ソロ(ハリソン・フォード)の愛機ミレニアム・ファルコン号のハイパードライブのシーン。「グンッ」とGがかかったかのような動きに思わずニヤッとしてしまった。戦闘シーンでは爆発があると座席が揺れ、レーザーが着弾すると耳の辺りに風が吹く。正面のスクリーンを見ているのに「どっちから攻撃が来るんだ」とドキドキさせられた。
一方の「ガルパン」は戦車戦のシーンが予想をはるかに上回った。映像のアングルが搭乗者目線になると、自分自身が試合(劇中の戦闘は「戦車道」という武道の試合という設定)に参加しているような気持ちになる。ジェットコースターのシーンでも思わずゾワッと縮み上がってしまった。
両作品とも通常の上映より楽しめるのは間違いない。ただ、「4DXがより効果的だったのは」と考えればそれは「ガルパン」の方だった。自分が参加しているような気分が高まれば高まるほど、同じ試合に参加している劇中のキャラクターたちに感情移入しやすくなる。通常上映なら客観的に「戦車戦すげぇ」となるのが、4DXではアニメの女子高生と戦友気分なのだ。
一方で、ワクワク感は宇宙船気分を味わえる「SW」がやはり上手だった。作品の仕掛けの大きさも手伝って、上映後は長時間のアトラクションを満喫したような気分だった。楽しさの総合点ならやはり「SW」だろう。
「ガルパン」は4DXで通常とは別の味わいを引き出し、「SW」はもともと持っている楽しさを倍増させてくれた。座席が揺れたり、風や水が飛んでくるのを味わうのに倍近い料金を払うのが妥当かどうかは個人の判断に委ねられるが、どちらも劇場を訪れないと味わえない感覚だということは間違いない。
最近は家庭のテレビが大型化し、映像の美しいブルーレイも一般的になった。劇場を訪れる価値が相対的に下がりつつあるだけに、4DXの付加価値には大いに意味がある。アクションや大作なら、ちょっと高い3Dより、いっそ倍の値段の4DXで体験するのもアリではないだろうか。
近年、アメリカの映画界では公開と同時にWEB上でも新作を見ることができるサービス「スクリーニング・ルーム」の導入に対する論争が起きている。サービスの値段は50ドルとかなり割高に設定されており、劇場にも利益の分配があるという。賛成派は「映画人口の増加が見込める」「あらゆるところに映画をとどけることができる」と主張。反対派は「観客が映画館に足を運ばなくなる」と危惧している。
記者は古いタイプなので反対派だが、一方で、こういうサービスがあれば、東京で単館上映しているような小規模作品を地方で見ることができるようになるのも事実だ。論争の決着はまだ付いていないようだが、何らかの形で“WEB公開”は実現するのではないだろうか。音楽のダウンロードが当たり前になり、CDショップが姿を消す、というような現象が映画界で起きないことを願うばかり。4DXのような体感型の上映は“WEB公開”という波の1つの対抗手段になり得るだろう。(デイリースポーツ・澤田英延)