イチロー、Tシャツに込めた思い
思わず噴き出しそうになったのは、イチローが“らしくない言葉”を口にしたからだ。
「これからも応援よろしくお願いいたします」
1月29日、東京都内で行われたマーリンズの入団会見。サムソン球団社長ら幹部も同席した会見場でファンへのメッセージを求められたイチローは10秒ほど沈思黙考した後、そう言った。
これまで数え切れないほどイチローの話を聞いてきたが、「応援よろしくお願いいたします」は記憶にない。少々、芝居がかった口調にも笑いのツボを刺激された。
しかし、そこからイチロー節がさく裂する。一瞬の間(ま)をつくってからこう続けた。
「とは僕は絶対に言いません」
会見場がどっと沸く。
「応援していただけるような選手であるために自分がやらなくてはいけないことを続けて行く、ということをお約束して、それをメッセージとさせていただいてよろしいでしょうか」
いつもと変わらないイチローがそこにいた。
関係者によると、この会見がイチロー発案のTシャツのモチーフになったという。
すっかり恒例となったキャンプ地でのオリジナルTシャツの“お披露目”。今年は2月23日、マーリンズのキャンプ地、フロリダ州ジュピターで、だった。
純白の生地。表側には、球団名のマーリン(カジキマグロ)のかぶり物をした「イチロー選手本人」(関係者)が描かれている。デザインを手がけたのは、13年の“カツサンドTシャツ”、昨年の“4000ドルTシャツ”と同じ女性デザイナーのSACO(さこ)さんだ。
“ゆるキャラ”と化したイチローが、槙原敬之の名曲「もう恋なんてしない」のメロディーに乗せて「♪おうえんしてくださいなんて~ いわないよじぇったい~」と歌っている。落書きのような字体。平仮名表記がゆるさを加速させている。
オチは背中の部分。一転、ごっつい字体で「応援よろしくお願いします」とある。入団会見で本人が「…とは絶対に言いません」と言い切った、あの一言がきっちりとプリントされていた。
「僕のアイデアなしでは成立しない。あの字体もね、どうするかいろいろ考えながら、いろいろ大変なんですよ」。
こだわりの逸品について語るイチローは本当にうれしそうだった。
Tシャツに対するさまざまな反応。イチローは「だって、(僕がTシャツの中で)ツッコんで!って言ってるわけですから。それは(周りの)みんなでやってもらわないと。逆に(無反応だと)困っちゃうね」と想定内だったことを明かす。
過去2年の作品はどちらもオフの自主トレの拠点にしている神戸の仲間たちがターゲットにしたものだったが、今年は違う。
ファンとの心の交流-。
練習後、球団施設の出入り口で行うサイン会は連日、大盛況だ。Tシャツのイラストを模した応援ボードを持参した家族がやって来た。カジキマグロのかぶり物をした男性も現れた。イチローが感謝の気持ちを込めてペンを走らせる。
(デイリースポーツ・小林信行)