【緊急連載】柔道ニッポンの落日(中)
日本の「柔道」と国際舞台の「JUDO」は似て非なる競技である。日本はしっかり組み、距離を置いて相対する“清く正しく美しい”正統派の柔道。外国勢はポイント稼ぎを優先して、形にこだわらない。背中をつかみ、横から道着を持ち、腕力に任せて揺さぶる。柔道には精神修行的な「道」があるが、JUDOは「DO」。勝つために「やる」だけなのだ。
今大会で象徴的だったのは3階級を制したロシア勢。奥襟や背中をつかんで動きを封じ、腕力を生かした接近戦で快進撃。金メダルが有力視された60キロ級の平岡拓晃、73キロ級の中矢力は、いずれも決勝で力負けして金を逃した。
欧州勢だけでなく、日本と体格ではそん色のない韓国勢が中量2階級を制覇。体格の違いは言い訳にならない。柔道の韓国語読み『ユド』の方が、JUDOに適応していた。日本は美学にこだわるあまり、時代から取り残された。
国際柔道連盟が09年に導入した世界ランキング制度も、日本にとってある意味で弊害があった。それまでは国別に出場権が割り当てられたが、国際大会でのポイント獲得数によって選手をランク付け。一定の順位以上でなければ、五輪代表になれない。
そこで海外転戦を急増させた結果、疲労とともに相手に研究された。全柔連の上村春樹会長は「今回の五輪では柔道のランク上位者が下位の選手に負け続けた」と指摘する。
4月の全日本選手権では、上川大樹ら100キロ超級の世界ランカー3人がそろって敗退。優勝した加藤博剛はランク圏外のため、5月の全日本選抜体重別選手権90キロ級で優勝しても五輪に出られず、加藤に負けた西山将士が五輪出場で銅メダルを獲得した。
五輪直前に『国内最強』と称された加藤が五輪に出られないランキング制度の矛盾。篠原信一監督は「五輪に出るだけでは意味がない」と重量級にハッパをかけたが、本当に「出ただけ」で終わってしまった。(次回に続く)