銀だ!太田「みんなのおかげ」全員主役
「ロンドン五輪・フェンシング男子フルーレ団体・決勝、日本39-45イタリア」(5日、エクセル)
太田雄貴(26)=森永製菓、千田健太(27)=ネクサス、三宅諒(21)=慶大、淡路卓(23)=ネクサス=の日本は、世界ランク1位で過去6度優勝のイタリアと決勝で対戦。39‐45で敗れ、銀メダルを獲得した。日本は準々決勝で中国、準決勝でドイツを破って勝ち進んだ。日本の団体初のメダルの背景として、ウクライナ人のマツェイチュク・オレグ・コーチ(40)は黒澤明監督の『七人の侍』を栄冠へのテキストにしていたことを激白した。
相手の剣先で胴を突かれ、太田は痛みではなく、悔しさで顔をゆがめた。最後の第9試合。37‐40と3点リードされ、3度目の出番を迎えた太田だったが、ポイントを連取され、敗戦となる45失点目を与えると、歓喜するイタリア選手の横でうなだれた。
優勝候補の中国、ドイツを破ってたどり着いた決勝前。太田は「出せるものはすべてピストの上に置いておこう」とチームメートに声をかけた。三宅、淡路、千田が呼応。最後こそ世界ランク1位のイタリアに突き放されたが、日本の力は見せた1時間22分だった。「日本の金メダルが少なかったので、一つでもと思ったけど、相手が一枚上手だった」と、充実感も漂わせた。
北京五輪では個人戦で銀メダル。日本ではマイナーだった競技が一躍、注目されるようになった。今回は個人戦でメダルを逃し、チームの一員として雪辱を期した。個人戦後に風邪をひき、「のどが痛くて1日中部屋にいた。それがかえって休養になって良かったかも」と打ち明けた。
宮城・気仙沼市出身の千田の存在も大きい。千田は東日本大震災で被災し、幼なじみを津波で失った。太田は「試合前日から『メダルを取って俺も気仙沼に行くぞ』っていう話をしてた。何とか健太にメダルをプレゼントしたかった」と、モチベーションとした。
ウクライナ人のオレグ・コーチは、拠点とする国立スポーツ科学センター(JISS)で2カ月前に、黒澤明監督の映画『七人の侍』を練習の合間に見せたという。「戦う気持ちがいかに大切か、もう一度確認するため」だった。
『七人の侍』は1954年公開の不朽の名作。太田はさしずめ、主役の三船敏郎が演じた菊千代となるが、「みんなの頑張りのおかげ。僕は最後の試合を締めることだけを意識した」と、全員が主役だったことを強調。映画より3人少ないフェンシング版の新作『四人の侍』が、ロンドン初公開で大ヒットとなった。
オレグ氏は「五輪での彼らは『ファイヤー』だった。炎のように心が燃えていた」と絶賛。太田は「北京のメダルがなかったら、このメダルはなかった。ただ、一番ほしいメダルとは違ったのは残念です」と、あくなき向上心を燃やした。