小原「みんなで取った」号泣金メダル
「ロンドン五輪・レスリング女子48キロ級」(8日、エクセル)
女子の48キロ級で、初出場の小原日登美(31)=自衛隊=が悲願の金メダルを獲得した。決勝で北京五輪銅メダルのスタドニク(アゼルバイジャン)に第1ピリオドを奪われたが、2‐1で逆転した。同階級の金メダルは初。小原は試合後の会見で、現役引退を改めて表明。今後は高校の後輩で自衛隊の元レスリング選手だった夫・康司さん(30)に「ご飯を作る」と、主婦業に打ち込むことをを明言した。
ポイントをリードして迎えた第3ピリオドも残り10秒。金メダルへのカウントダウンが始まった。「3、2、1、ウォ~!」。地響きとなった大歓声を背に、小原はクシャクシャになった顔を両手で覆うと、マットに座り込んで号泣した。回り道の末につかんだ栄冠。五輪前に引退を決意していた。31歳、万感の思いを込めた、一世一代の大泣きだった。
「信じられない。私一人の力では金メダルを取れなかった。みんなで取ったんだと思います」。日の丸を肩に、スタンドの家族らに手を振った。
決勝の相手は北京五輪銅メダルのスタドニク。昨年9月の世界選手権決勝で退けていたが、第1ピリオドは雪辱に燃える相手に圧倒され、0‐4で完敗。窮地に陥った第2ピリオドはニッポンコールに後押しされて制し、嫌な流れを変えた。第3ピリオド48秒、バックを取って貴重な2点目。この瞬間、勝利を確信したのか、小原はもう半泣きだった。
五輪では適正体重に近い55キロ級に吉田沙保里という壁がそびえた。アテネの代表選考に敗れ、03年に最初の引退。実家に引きこもり、過食症で体重が70キロを超えた。その時、八戸工大一高の1年後輩で、一昨年に結婚した康司さんに励まされて復帰。北京の道も吉田に断たれて再び引退したが、48キロ級で五輪出場をかなえられずに引退した妹・真喜子さん(26)にバトンを渡され、10年に再復帰した。
「妹の階級である48キロ級を一緒に戦った。減量や練習で苦しい時にはダンナに助けられた。家族にロンドンで金メダルを見せたかった」。駆けつけた夫と妹に最高の恩返しができた。
3度目の引退だ。「今回の五輪が最後と決めていた。最後に優勝できて最高の気持ち」と悔いはない。
そう思うと、緊張の糸がほどけたか、お腹が鳴った。「甘いものを我慢してきたので、今はアイス(クリーム)をいっぱい食べたい」と笑い、会見で隣の伊調に目配せ。「金を取ったら、ロンドンの残り時間は馨と一緒におしゃれなバーでお酒を飲んで、おいしいものを食べて、買い物もしたいねって、2人で話してました」。それが最高の自分たちへのご褒美だ。