伊調 姉・千春さんと刺激し合いつかんだ頂点
「リオ五輪・レスリング女子フリースタイル58キロ級・決勝」(17日、カリオカアリーナ)
女子58キロ級決勝で伊調馨(32)=ALSOK=がワレリア・コブロワゾロボワ(ロシア)を下し、金メダルに輝いた。階級変更前の63キロ級を含め、04年アテネ五輪からの4連覇は、五輪全競技を通じ女子個人種目で史上初の偉業となった。
メダリスト姉妹の食卓には、海外のレスリング動画が欠かせない。伊調の姉、千春さん(34)は現役を退いたが、姉妹で刺激し合い、支え合いながら競技に向き合う姿は変わっていない。
「あのイランの選手、片足タックルうまいよね」。食べながらも、そんな分析が飛び交う。北京五輪後はレベルの高い男子選手と練習を重ね「レスリングを究めたい」と理論的に競技を捉えようとする伊調にとって、大事な対話の時間だ。
国内外の大会に、異なる階級で共に出場してきた。千春さんはアテネ、北京両五輪でいずれも銀メダルを獲得。その後は教職に就き、地元の青森県八戸市の八戸工高で体育教諭として男子生徒に競技を教える。
ただ、トップレスラーも自身の技術や経験を伝えるのはそう簡単ではない。ましてや男子は動きも違う。
千春さんは迷うと「現役最強」の妹に助言を求める。「高校生はこの動きができない」と悩むと、妹は「もしかしたら生徒はこう考えているのかもね」と選手の立場から応じ、「指導者は難しい」とこぼすと「難しいからやりがいがあるんでしょ。簡単に教えられるなら、すぐに世界チャンピオンが出ちゃうよ」と励ました。
「自分が忘れてしまっている選手の目線を教えてくれる」と感謝する千春さん。引退後に指導者にならないかと妹に水を向けると「勝敗にこだわらなくていい、小さい子ども相手ならいいかな」と返されたという。
勝利の直後、スタンドを走り下りてきた姉に、伊調もカメラマン席を乗り越えて駆け寄った。レスリングへの愛情とともに強まる姉妹の絆。伊調にとっては、それが4度目の頂点への原動力だった。