土性 沙保里父の直伝タックルで大逆転 初の五輪で金メダル!
「リオ五輪・レスリング女子フリースタイル58キロ級・決勝」(17日、カリオカアリーナ)
先輩2人に続き、女子69キロ級の土性沙羅(21)=至学館大=も初出場の五輪で金メダルを獲得した。決勝でロンドン五輪72キロ級金メダルのナタリア・ボロベワ(ロシア)を内容差で破り、階級区分変更後、新たに実施された階級の初代女王となった。
語り掛けるように金色のメダルを見つめた。初の五輪出場で世界の頂点に立った土性は「重くて大きい。これが五輪の金メダルなんだな」とはにかんだ。
決勝では12年ロンドン五輪72キロ級覇者のボロベワに終盤まで0-2と追い込まれた。敗色濃厚となった残り30秒。「何が何でも勝ってやる」と相手の左脚を鋭く取って同点に持ち込み、内容勝ちを収めた。日本の女子レスリング史上初の重量級での金メダル。登坂、伊調に続き窮地からの劇的逆転をもたらしたのは、14年に61歳で死去した吉田沙保里の父・栄勝さん直伝のタックルだった。
絵を描いたり、漫画が好きな物静かな少女だったという。幼稚園の年長ごろからぽっちゃりし始めたため、母・祐子さん(47)は何か運動をさせたいと考えていた。02年3月3日、小学1年の土性は栄勝さんが主宰していた三重県一志町(現津市)のレスリング教室に入門した。父・則之さん(48)が松阪工高時代に所属していたレスリング部のコーチを栄勝さんが務めていた縁だった。
厳しさは想像を超えていた。休みはほとんどなく、毎日2時間の練習の半分はタックルに費やされた。タックルに入る位置が数ミリずれても容赦なく竹刀でたたかれた。「泣いたら怒られるので歯を食いしばっていた」。鼻血を出しても「鼻血は血じゃない。拭く暇があったらタックルせえ!」と怒鳴られた。「レスリングは沙羅に合っているのか。見切りをつけるべきなのか」。祐子さんは葛藤の日々を送った。
小学4年で初めて全国優勝を飾った。ちょうど教室の先輩である吉田が04年アテネ五輪で初めて金メダルを獲得した年でもある。08年北京五輪は近くの公民館で観戦。「本当にかっこよくて、自分もこうなりたいと思った」と金メダルへの思いを募らせた。中学2年時にスウェーデンの国際大会で優勝し、磨き上げてきたタックルに自信が持てた。栄勝さんからは「やればできるやん。沙羅強いやん」と褒めてもらえた。
別れは突然訪れた。14年に栄勝さんがこの世を去った。「いきなりすぎて信じられなかった。今でもまだ一志に帰ったら道場にいるんじゃないかと思ったりする」。この日の試合前には「大丈夫だよ、いつも通りやれば」と声を掛けられた気がした。五輪前には墓参りに出掛け「絶対金メダルを取ってきます」と誓っていた。今度は輝くメダルを手に、亡き恩師に会いに行く。