川井梨紗子 母の夢かなえた金メダル 「最高の舞台だよって伝えたい」
「リオ五輪・レスリング女子フリースタイル63キロ級・決勝」(18日、カリオカアリーナ)
63キロ級決勝で初出場の川井梨紗子(21)=至学館大=はママシュク(ベラルーシ)に6-0で判定勝ちし、金メダルを獲得した。川井は本来の58キロ級から階級を移して15年世界選手権で準優勝し、代表切符を獲得。20年東京五輪で活躍が期待されるホープが大輪の花を咲かせた。75キロ級の渡利璃穏(24)=アイシンAW=は初戦の2回戦で敗退した。日本勢は女子の6階級中4階級で優勝し、メダル5個を獲得した。
初出場の五輪で手にした金メダル。観客席の最前列から声をからした家族の元へ駆け寄った川井は、固く抱き合い「ありがとう」と大粒の涙を流した。レスリング一家の悲願がついに成就した。
決勝前の試合で吉田がまさかの敗戦を喫したが、川井に動揺はなかった。「何が起こるか分からないと思った。でも自分は絶対に金メダルを逃さないと決めていた」。試合開始とともに高速タックルを次々と浴びせ、右足タックルで2点先制。第2ピリオドでは左足をとらえ、終了間際にも背後に回って2点ずつ追加。危なげない試合運びだった。
母・初江さん(46)は日本の女子レスリング草成期に活躍した元全日本王者で89年の世界選手権に出場した。父孝人さん(48)も日体大で学生王者に輝いたことがある。小学2年の時、「金メダルが欲しくないか」という父の何げない一言でレスリングを始めた。小学4年になると、地元クラブのコーチを引き受けた母の指導を受けるようになった。
川井の成長とともに母の指導は厳しさを増し、試合に勝っても攻撃の姿勢が欠けていると怒鳴りつけられたこともあった。口げんかが絶えることはなく、母娘がぎくしゃくすると孝人さんが川井を買い物に連れ出して娘の話に耳を傾けた。
強豪の至学館高(名古屋市)に進学する際には、母から「先輩を食うつもりでやりなさい。マットでは遠慮するな」と強烈な叱咤(しった)で送り出された。初江さんは「娘であり教え子。純粋な母娘というのは想像しづらい」と苦笑いするが、母娘の絆は固い。川井はいつも試合で母のメッセージが書かれたハンカチを使用している。五輪の前にも新しくハンカチを手渡された。そこに記された言葉は2人だけのものだ。
「お父さんも初めて自分の試合に来てくれた。家族の前で一番いい色のメダルを見せられてうれしい」と川井は声を弾ませた。女子レスリングが五輪の正式種目になったのは04年アテネ五輪から。母には手が届かなかった舞台だった。表彰台の真ん中に立った娘の姿に、初江さんは「これが見たかった。純粋に感動するってこういうことなのかな」と喜びに浸った。