羽生結弦“王者”のまま帰ってきた 1番滑走で圧倒!異次元の完全復活

 「平昌五輪・フィギュアスケート男子・SP」(16日、江陵アイスアリーナ)

 ショートプログラム(SP)が行われ、前回2014年ソチ五輪の金メダリストで昨季の世界選手権覇者、羽生結弦(23)=ANA=が自身の世界歴代最高点に1・04点と迫る111・68点をたたき出し、圧巻の首位発進を決めた。右足首の負傷を経て118日ぶりの復帰戦で、ほぼ完璧な演技を披露。66年ぶりの連覇に向け、強い決意で17日のフリーに臨む。ハビエル・フェルナンデス(26)=スペイン=が2位、宇野昌磨(20)=トヨタ自動車=が3位につけた。

 止まっていた時計の針を動かすには十分すぎるほどの快演だった。昨年10月のロシア杯以来118日ぶりの実戦。それが五輪という4年に一度の大舞台であるからこそ、羽生は冷静に、熱く戦い抜いた。どうだと言わんばかりの表情で演技を終えると、観客に向かって「ただいま」。ブライアン・オーサー・コーチに「カムバック」-。強烈な輝きを誇る羽生結弦が、勝負の銀盤に帰ってきた。

 朝の公式練習で不調だった冒頭の4回転サルコーを決めると、もう怖いものはなかった。演技後半のトリプルアクセル(3回転半)は満点の加点がつく最高の出来栄え。4回転-3回転の連続トーループも、ため息が出るほど美しかった。ピアノの鍵盤をたたくかのようなステップ、旋律にピタリと合ったスピン。そのどれもが、羽生の完全復活を物語っていた。演技後は沸き上がる歓声に浸りながら、自らへ拍手。111・68点を見ると「1・1・1」と指で得点を示し、ナンバーワンをアピールした。「とにかく満足という気持ちが一番。会場に帰ってきて、滑れることが楽しくて幸せで…。そういうことを感じながら滑った」。湧き上がる喜びをかみしめた。

 長い長い3カ月だった。昨年11月9日、NHK杯の公式練習中に負傷した右足首の状態は、想像以上に思わしくなかった。当初は痛み止めを飲んででも強行出場しようとしたが「痛みどころじゃなくて、足首が動かなくなった」。会場のある大阪を、松葉づえで後にするしかなかった。

 復帰までの過程はさまざまなことを考え、悩んだ。頭を支配しようとする後ろ向きな思考を懸命に振り払った。論文を読みあさり、トレーニングも見直し、負傷から2カ月がたった頃にようやく氷上に復帰。ジャンプには回数制限がついた。トリプルアクセルを跳んだのが3週間前。4回転は跳び始めてから2週間ほどだ。

 「挑戦しないと僕らしい演技はできない」と語っていた羽生が、状態を見極め、勝利への最短距離としてあえて選んだこの構成。「調整が間に合わなかった部分もあった」と言うが、自身最高の難度ではなく勝ちに徹するプログラムを選択し、体現した。不屈の男は折れなかった。

 2位のフェルナンデスとは4・10点、3位の宇野とは7・51点差で臨む運命のフリー。「(ソチ五輪の)フリーのミスがここまで4年間頑張って強くなれた一つの要因。リベンジしたい」。4年前、「悔しい」と言いながらつかんだ金メダルの感触はいまも忘れない。雪辱の時は、新たな歴史を刻むとき。その瞬間は、もうすぐそこだ。

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