【振付師・宮本賢二の解説】3回転ルッツに表れた金メダルへの強い意志
「平昌五輪・フィギュアスケート男子・フリー」(17日、江陵アイスアリーナ)
ショートプログラム(SP)首位の羽生結弦(23)=ANA=が206・17点をマークし、合計317・85点で男子では1948年サンモリッツ、52年オスロ大会のリチャード・バットン(米国)以来、66年ぶりの2連覇を達成。宇野昌磨(20)=トヨタ自動車=が銀メダルに輝き、日本勢のワンツーフィニッシュとなった。銅メダルはハビエル・フェルナンデス(スペイン)。
◇ ◇
【振付師・宮本賢二のエンジョイ!!フィギュア】
羽生選手の演技には感動で言葉が出なかった。後半はかなりきつそうでスピードが落ちそうになったが、金メダルへの強い意志を感じたのが最後のジャンプ、3回転ルッツだ。
ここでは着氷時に回転が止まらずオーバーターンになりそうだったが、左脚を横に止めて、さらに前にもって行こうとした。普通ならフリーレッグ(着氷していない方の左脚)が後ろに行ってしまい、オーバーターンになって曲に間に合わなくなる。しかし、羽生選手はそれを防ぎ、しかも「絶対に手をつかない」と流れを戻そうとした。思い続けてきたソチ五輪の悔しさを晴らすため、最後までやりきったのだと思う。
10代の頃からいつも笑顔の少年が、練習になると一変して眼光が鋭くなった。振り付けをしている時も、自分が納得できるまで何度もやり直す。こちらがこれくらいでいいんじゃないかと思っても、30分もすれば「賢二先生、もう一度やっていいですか?」と戻ってきた。
ジュニアの選手は特にジャンプの練習時間が増えがちだが、彼はスケーティングやフリーレッグの位置など地味な動きへのこだわりも強かった。その姿勢は、今のプログラム全体の完成度にもつながっているのだろう。
宇野選手の銀メダルも見事だった。インタビューで冒頭のジャンプ失敗に「笑えてきた」と言っていてこちらも笑ってしまったが、とにかく精神的な自己管理がすばらしかった。吸い付くようなスケーティングにジャンプの確実性も高い。腕の使い方もメリハリがよく多ジャンルの曲をこなせるため今後がさらに楽しみだ。田中選手も失敗はあったが、4回転サルコーに成功し、トーループの着氷でこらえた姿は感動的だった。胸を張って帰ってきてほしい。
今大会では5本の4回転に成功したチェン選手など多くが数種類の4回転を入れた。すでにクワッドアクセル(4回転半)を練習している選手もいて、試合で挑む選手も出てくるだろう。
振付師としては、以前は4回転の直前にスピードを出す必要があり、ステップなどは滑りやすいように少しシンプルな振り付けにしていた。しかし、今はぎりぎりまで動きを入れられる。4回転を何種類何本跳ぶかだけでなく、芸術面、表現面でも高いレベルが要求される時代だ。羽生選手の連覇は、それを体現したものだった。
◇ ◇
宮本賢二(みやもと・けんじ)1978年11月6日、兵庫県姫路市出身。シングルからアイスダンスに転向し、全日本選手権優勝など数々の栄冠を手にした。2006年に現役を退いた後は振付師として羽生結弦や荒川静香、高橋大輔、織田信成、宮原知子ら国内トップスケーターのほか、さまざまなアイスショーの振り付けも行い、テレビなどでも解説を行っている。