「北京五輪・ノルディックスキージャンプ・男子ノーマルヒル・決勝」（６日、国家スキージャンプセンター）

　小林陵侑（２５）＝土屋ホーム＝が日本勢金メダル１号に輝いた。１０４・５メートル、９９・５メートルの合計２７５・０点をマークし、悲願の制覇で「師匠」から託された悲願をかなえた。所属先で選手兼監督を務める８大会連続五輪出場の葛西紀明（４９）から薫陶を受け、飛躍を遂げてきた小林陵。９大会連続を逃した葛西の思いを背負い、“レジェンド”がどうしてもたどり着けなかった頂へと降り立った。

　この日、テレビのコメンテーターとして来場し、愛弟子の戴冠を見守った葛西は、ただただ涙した。「もうね、たまっている涙、全部出ました」。自身が編み出した練習飛躍を飛ばないという“レジェンド戦法”を使われ「やりやがったなと思って。その時点で涙がグッときた」と笑った。

　初めて小林陵のジャンプを見た時「間違いなく化けると思った」と、振り返る。岩手・盛岡中央高時代から鋭い飛び出しが光った小林陵を、自身のチームに招き入れることを決めた。抜群の運動能力に、スキーの滑らせ方、最適な空中姿勢。その姿に、世界を転戦するＷ杯男子最多の５３勝を誇るグレゴア・シュリーレンツァウアー（オーストリア）の姿を重ね合わせた。

　小林陵は入社２年目の１６～１７年シーズンから本格的にＷ杯遠征メンバーに。当時日本の中軸で１４年ソチ五輪銀メダルの葛西らと開幕からフル参戦したが、Ｗ杯得点（３０位以内）を一度も取れない屈辱の冬を過ごした。１７年夏のスロベニア合宿。苦しむ愛弟子に葛西は助言を一つ送った。「膝から下は置いてこい」。踏み切る際に膝が後ろに動き、スリップする悪癖改善のため「膝より上だけを動かすイメージ」を伝えた。再現力に優れる小林陵は瞬く間にものにした。一緒に出場した１８年平昌五輪では、個人ＮＨ７位入賞と健闘。翌１８～１９年シーズンには欧州勢以外で初のＷ杯個人総合王者となり、一躍スターダムにのし上がった。葛西は「ここまで強くなるとは。教えるんじゃなかったかな」とあきれたように笑う。

　実に３４年ぶりに自分のいない冬季五輪。魂を受け継いだ愛弟子が金メダルを取ってくれた。小林陵は葛西に「金メダルを掛ける」と約束してくれている。まだ金メダルを目指し、現役を続けている葛西。「選手として悔しさはないですか？」と問われて言った。「悔しさはなかった。他の選手だったら、もしかしてあったかもしれないけど、陵侑だったから」－。