「北京五輪・フィギュアスケート男子・フリー」（１０日、首都体育館）

　１８年平昌五輪銀メダルでＳＰ３位の宇野昌磨（２４）＝トヨタ自動車＝がフリー５位の１８７・１０点、合計は自己ベストの２９３・００点で銅メダルを獲得した。ジャンプミスはあったが、コーチ不在や不振を乗り越えた４年間を振り返り「素直にうれしい」と喜んだ。日本フィギュア史上、２大会連続のメダルは羽生以来２人目。団体の銅と合わせて個人３個目の五輪メダルは史上最多となった。

　生まれ変わった自分を感じていた。だからこそ、１８年平昌五輪から一つ順位を落としても、表情はすがすがしかった。「この４年間でいろんなことがあった。再びこの場所に立てていることは素直にうれしい」という宇野は、「今日の演技がどうであれ、この順位は４年間の成果」と銅メダルを握りしめた。

　ＳＰ３位から臨んだフリー。バレエ「ボレロ」の重厚な音色に乗って挑んだのは、４種類計５本の４回転を跳ぶ高難度プログラム。今季ここまでミスが出ていた構成に「どんな失敗も受け入れるつもり」と果敢に挑んだ。

　４回転は冒頭のループで成功も、サルコーで回転不足。得意のフリップでステップアウトして手をつき、後半のトーループも着氷が乱れた。合計では自己ベストでも、優勝したチェンとは４０点近い差がついた。それが今の自分がいる場所だ。

　「スケート人生のどん底」を経験したという平昌からの４年。１９年には、幼少期から指導を受けた山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れた。「僕は満知子先生、美穂子先生の下でスケート人生を一生送るつもりだった。数年前から満知子先生は、トップを目指すために外に出た方がいいと」

　伊藤みどり、浅田真央らを育てた名コーチから背中を押されたのはいばらの道だった。平昌五輪金メダルのザギトワらの指導で知られるエテリ・トゥトベリゼ・コーチの合宿に参加するなどしたが、結果的にコーチ不在で１９－２０年シーズンに突入。中京大のリンクで一人黙々と滑り込んだ。１９年のフランス杯では、初めてＧＰシリーズの表彰台を逃す８位に低迷。キスアンドクライで一人涙した。

　「目の前のものだけを求めてスケートをしていると、スケートが苦しくなる」とモチベーションすら失いかけた苦境から救い出してくれたのが、現コーチで元世界王者のステファン・ランビエル氏（３６）だった。「スケートの楽しさを改めて知った」という師との信頼関係が、再び前を向くきっかけになった。ランビエル氏はコロナ陽性反応で渡航が遅れたが、団体のＳＰで自己新を出すなど動じなかった。

　新たな恩師が振り付けた今季フリー「ボレロ」を「これまでのどのプログラムよりも中身が詰まっている」という高難度に仕上げた。だからこそ、失敗に悔いはない。「この構成で練習をあと数年続ければ、間違いなくもっともっとレベルが上がる。今のネーサン・チェン選手のような位置で戦うことも可能だと思う」。銅メダルが教えてくれた。本当の勝負は、まだ先にある。

　【宇野昌磨アラカルト】

　▼生まれ＆サイズ　１９９７年１２月１７日、名古屋市。１５８センチ、５５キロ。

　▼競技開始　５歳のとき、リンクで浅田真央さんに声を掛けられ競技を始める。

　▼実績　１８年平昌五輪銀メダル。１６～１９年全日本選手権４連覇。１７、１８年世界選手権銀メダル。１９年四大陸選手権金メダル。

　▼趣味　ゲーム。平昌五輪銀メダル獲得後も「（選手村での生活は）日本にいる時よりもゲームができたので満足」と話し、周囲を驚かせた。

　▼食べ物　好きなものは肉。１日３食すべて肉もあり。嫌いなものは野菜。

　▼愛犬　エマ、トロ、バロンの３匹。トイプードル。「ワンちゃんは苦手だったけど、今ではすごいかわいい。年々僕、自分が人間らしくなっていると正直感じます」

　▼英語　スイスを拠点にステファン・ランビエル・コーチに師事。それでも「困ったときは誰かが助けてくれる」と英語の習得に前向きな姿勢を見せたことはほぼない。