森重航 天国の母に捧げる「銅」男子500m12年ぶりのメダル 無名の存在から急成長

 男子500メートルで銅メダルを獲得し日の丸を手にする森重航(撮影・堀内翔)
 男子500メートルで滑走する森重
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 「北京五輪・スピードスケート男子500メートル」(12日、国家スピードスケート館)

 男子500メートルは、森重航(21)=専大=が34秒49で銅メダルを獲得した。スピードスケート日本男子のメダルは2010年バンクーバー大会500メートルで長島圭一郎の銀、加藤条治の銅以来12年ぶり。村上右磨(29)=高堂建設=は8位、新浜立也(25)=高崎健康福祉大職=はスタートでつまずき、20位に沈んだ。

 急成長どころではない。五輪の銅メダルまで、森重が一気に駆け上がった。中学、高校の日本一は経験していたものの、昨季までシニアでは無名の存在。純朴な21歳の青年が4年に一度の大舞台で、爆発的な追い上げを見せるいつも通りのレースを展開した。「力は出し切った。3位という結果が取れて良かった」。3大会ぶりメダルの大仕事を達成。緊張した面持ちが、ようやく和らいだ。

 北海道東部にある別海町の出身。人口約1万4500人ながら牛の数は約12万頭という街で生まれ育った。8人きょうだいの末っ子で、実家は酪農家。きょうだいはスケートをしていなかったが、保育園時代からなぜか「リンクで朝から晩まで遊んでいる子」として有名だった。学校で配布された「別海スケート少年団白鳥」のチラシを見て、小学2年でスケートを始めた。

 寡黙な少年は、瞬く間にスケートにめり込んだ。少年団の小村茂監督(51)は「本当に淡々と、何をやっても動じない。滑っている時間が一番生き生きしていた」。トレーニングを兼ねて、20キロ離れた練習場へ自転車で来ることもあった。

 当時、釧路のリンクまで片道1時間半の道のりを母俊恵さんが車で送迎してくれた。多い時は週4日。明るく朗らかで、誰からも愛される母だった。

 しかし19年7月17日、19歳の誕生日。乳がんと戦っていた母から電話があった。「スケート、頑張れ」-。絞り出す声が聞こえた。4日後に他界。母は自分の活躍を誰より喜んでくれていた。「スケートに懸ける思いが大きくなった」。決して口数の多くない森重の、強い決意だった。

 自分でも「信じられない」というほどの成長を遂げて、迎えた初の大舞台。携帯で母の写真を見て「行ってきます」と誓った。リンクではスケートだけに集中。さっそうと駆け抜け、天国へ捧げる銅メダルをつかみ取った。「喜んでいるんじゃないかな。帰ったらしっかり報告したい」と森重。さらなる輝きは「また4年後、8年後」。淡々と努力を積み重ねてきた成長株が、最高の舞台で覚醒した。

 【森重航アラカルト】

 ▼生まれ&サイズ 2000年7月17日、北海道別海町。175センチ。

 ▼家族 8人きょうだいの末っ子で、実家は酪農家を営む。

 ▼競技歴 小学2年生の時に、学校で配布された少年団のちらしを見てスケートを始める。山形中央高を経て現在、専修大3年生。

 ▼実績 20年世界ジュニア選手権500メートル3位、1000メートル4位、チームスプリント4位。21年全日本距離別選手権500メートルで優勝。21年12月の五輪代表選考会でも1位になった。W杯では21年12月のソルトレーク大会で初優勝し、今季急成長を遂げた“ダークホース”。

 ▼趣味 漫画と球技。

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