高木美帆 銀2つ目「挑戦して良かった」 5個目メダル獲ったスケーターの挑戦心
「北京五輪・スピードスケート女子500メートル」(13日、国家スピードスケート館)
女子500メートルは今大会5種目に挑戦する高木美帆(27)=日体大職=が自己ベストの37秒12をたたき出し、1500メートルに続き、2つ目の銀メダルに輝いた。2018年平昌五輪では金、銀、銅メダルを獲得しており、冬季2大会連続の複数メダルは日本史上初。通算5つ目のメダルは日本勢では冬季単独最多で、夏季を含め、柔道の谷亮子ら女子最多に並んだ。平昌五輪で同種目金メダリストの小平奈緒(35)=相沢病院=は38秒09で17位に終わった。
アッと驚くメダル獲得劇だった。鋭いスタートから好ダッシュを決めると、スピードに乗り、一気にゴールを駆け抜けた。高木美は自己ベストの37秒12の表示を確認すると、高々と右手を上げ、そして両拳を握った。これが今大会4レース目。充実感が体中を駆け巡った。
高速リンクのカナダ・カルガリーで出した19年世界オールラウンド選手権の37秒22を0・10更新し、平昌五輪銀メダル相当の好タイム。その後、出てくるライバルのタイムが伸びない。ジャクソン(米国)には抜かれたが、結局銀メダルが確定。乳酸を抜くためのバイクをこいでいた高木美に吉報が届いた。
「今は正直驚いている気持ちでいっぱい」。予想外の結果に笑いが止まらない。これで個人通算5個目のメダル。男女含めて断トツのメダル数だ。「正直(本命の)1500メートルが終わった段階で、パシュート(団体追い抜き)のことを考えると(500メートルに)出るかどうか本気で考えたこともあったが最後まで挑戦して良かった」。思わず本音がこぼれた。
18年平昌五輪では唯一出場しなかったのが500メートル。中長距離を主戦場としてきた高木美にとっては、92年アルベールビル五輪の橋本聖子、06年トリノ五輪の田畑真紀に続く5種目出場で、最も冒険要素の強い種目だった。大本命だったのは銀メダルに終わった1500メートル。500メートルは最も可能性が低いとみられていた。
昨年10月の全日本距離別では小平に敗れ2位。「500メートルの難しさを痛感した。世界を見据えた時にはまだ厳しいところにいる。やりこめば速くなるわけではない。うまく取り組んでいかないと」。見据える場所はまだまだ遠かった。
日程的にも連覇の懸かる団体追い抜きの予選と決勝の間に入るスケジュール。「自分の体だけじゃなく、気持ちも覚悟を持てるのか」。自問自答しながら、最後は腹をくくった。「自分の中でチャレンジしたい気持ちがあった。自分がどこまでいけるのか」。スケーターとしての挑戦心が勝った。
金メダルを獲りにいった1500メートルで無念の銀。悔しくて笑えなかった。それでもメダルを受け取り、まだ挑戦が続くことを実感。気持ちを切り替えた冒険種目で、ポテンシャルを爆発させた。
果敢な挑戦は実を結び、これで今大会銀メダル2つ。残るは金メダルの期待が懸かる15日の団体追い抜き、17日の1000メートル。日本人では前人未到となる冬季五輪1大会4個のメダル獲得へ、万能スケーターの戦いは続く。