柔術世界一の師もうなる角田夏実の関節技「極め勘がすごい。スナイパー」“参った”に気づかず絞め落とされた逸話も

 金メダルを獲得し、笑顔を見せる日本代表・角田夏実(撮影・中田匡峻)
昨年、柔術の世界一にも輝いた高本裕和さん。東京学芸大柔道部のOBで、角田も参加した柔術練習を主催していた
 角田夏実の腕ひしぎ十字固めの独自の手首のクラッチについて解説する高本裕和さん(下)
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 「パリ五輪・柔道女子48キロ級」(27日、シャンドマルス・アリーナ)

 21~23年世界選手権3連覇の角田夏実(31)=SBC湘南美容クリニック=が、決勝で世界ランク2位のバブドルジ(モンゴル)に優勢勝ちし、金メダルを獲得した。同階級での金メダルは2004年アテネ五輪の谷亮子以来20年ぶり。また、31歳11カ月での金メダルは日本女子史上最年長となった。

 変幻自在のともえ投げと、一撃必殺の腕ひしぎ十字固めで、狙った獲物は逃がさない。角田の飛躍のきっかけの一つとなったのが、東京学芸大時代に取り組んだ柔術だった。自由な気風だった部では有志が自主的に朝の時間に集まって練習しており、そこで柔術を主催していたのが、同部OBで現在柔術道場を運営している高本裕和さん(47)だった。

 高本さんはサンボや総合格闘技にも取り組んだ後、独学で試行錯誤しながら柔術を学び、昨年には権威あるワールドマスター選手権で世界一に輝いた。そんな柔術界の第一人者は、かつて指導もした角田について「(関節技の)極め勘がすごい。(試合の中で勝機は)ここだ、と思ったときに全力を投入できる感覚が優れている。まさにスナイパーですね」とうなる。

 「そんなにスペシャルな感じではなく、普通に柔道が強い女子選手だなと」。大学1年で朝練に参加しだした当初の角田への第一印象は平凡なものだった。ただ同時に、新鮮な気持ちで楽しそうに柔術に打ち込む姿も印象的だった。「柔術が楽しいから、もっと上達したくて研究したんだと思う。それに負けず嫌いなので、自分がやられた技は次回掛からないように研究してきていた」。乱取りで一本を取られた技はすぐに対策を練り、他の部員に比べて上達は早かった。

 現在にもつながる、ゾーンに入った時の角田の強さの片りんを見た逸話もある。高本さんがスパーリングしていた際、角田の絞め技に「参った」をしたが、集中していた角田はそれに気づかず、そのまま絞め落とされたという。高本さんは「集中したら目の前の勝負に没入してしまう。それも勝負師としては強いところですよね」と笑いながら振り返った。

 寝技に関して「真っ白」なのも良かった。一般的な柔道の強豪校で、オーソドックスな抑え込み中心の寝技を徹底的にやってきた選手は、試合で寝技に入ると反射的に抑え込みの攻防に終始してしまう。しかし、角田は抑え込みが苦手だったのもあり、投げたり抑え込むだけではポイントにならない柔術経験を経て、立ち技からも腕関節で一本を取るための逆算するようになった。

 さらに、高本さんを驚かせたのが、現在進行形で進化していることだった。「(関節の)極め方は僕が教えていた当時からブラッシュアップされている」。東京都小平市で運営している「高本道場」に来た角田とスパーリングした際、腕十字固めの取り方が以前とは違う。「相手の腕をホールドする組み手が、見たことがない形を使っていた」。片方の手で相手の手首をつかみ、もう一方の手はそれをクロスするように挟み込んで、自分の手首をつかんでホールドする。「骨と骨がダイレクトに連結するので、たしかに強く引っ張られても抜けにくい。理にかなっている」。常に研さんを続ける姿勢に目を見張った。

 高本さんのもとで柔術を学んだことが、ともえ投げからの腕ひしぎ十字固めという戦い方の礎になった。角田は「ともえ投げからの寝技というところで、自分の柔道をつくれた。(柔術練習では)一本を取らないと終われないので、そこで関節技を中心にやっていた。抑え込みが苦手だったので、(一本を)取るにはやっぱ十字かなと」。早くから活躍していた同世代のスター選手がほとんど引退する中、日本史上最年長の31歳11カ月で金メダルをつかんだ。遅咲きのヒロインは、独自の歩みで磨き続けた異色のスタイルで大輪の花を咲かせた。

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