体操男子・萱の熱い夢物語 支え続けた妻・星良さんが語った思い「最高の笑顔を見せてくれたのが一番の幸せ」
「パリ五輪・体操男子団体・決勝」(29日、ベルシー・アリーナ)
深夜の日本列島を沸かせた奇跡の大逆転劇。2大会ぶりに金メダルを手にした体操ニッポンの戦士たちを支えた裏には、縁の下で支え続けた人がいる。萱和磨の妻・星良(せいら)さん(27)が、熱き男たちの素顔を明かした。
奇跡の大逆転をパリの会場で見守っていた。萱の妻・星良さんは、『金』への願いを込めて染めた金の髪を笑顔でゆらした。「すごく楽しくて楽しくて、楽しいあまり途中の記憶があんまりないけど、ずっと笑顔が多いチームだった。全員がすごく楽しそうにやっているのが見えて私も幸せ。ああいう戦い方をして、すごくみんな苦しかったと思うけど、最後最高の笑顔を見せてくれたのが一番の幸せでした」。
2人は小学校と中学校の同級生。大学1年で再会し、交際に発展。21年東京五輪後に結婚した。夫の魅力は「すごくいろんなことをストレートに言葉にして伝えてくれるタイプで、それが意外と刺さった」と照れ笑いで明かす。昨年4月からは管理栄養士の資格を取るために大学に入学。2度目の大学生活の合間を縫ってパリを訪れた。
萱はとにかく熱い。試合では全力でガッツポーズし、吠(ほ)え、熱い言葉で仲間を鼓舞する。そんな人柄がにじんだエピソードがある。今年4月に始まったパリ五輪代表選考。最終選考会となる5月のNHK杯前、緊張した星良さんが「私だけ寝られなくなった」。ふと思い立って隣の夫に提案した。
「インタビューしていい?」
「なに?いいけど」
突然スタートした深夜の“単独取材”。「今し烈な争いがある中で、どういうモチベーションや気持ちで日々やってるの?」と聞いた。「1個しかない。練習。練習に勝るものはないから、練習でしっかりできていて、練習で通し切っていたら、本番ではできる」。夫はきっぱり言い切った。
「もちろん奇跡が起きて、1発逆転とかもあると思うけど、でもその全てには練習が軸になってくるから、『俺は練習以外、頑張ることはないかな』と言っていた」。不安は消されて熟睡した。その情熱が、最後の逆転劇を引き寄せた。
自宅のリビングには、東京五輪の団体銀メダルと種目別あん馬の銅メダルを置く棚がある。「金じゃないから飾りたくない」と言った夫に、星良さんは「これを見て次に進んだ方がいいんじゃないかな」と声をかけた。金メダルの置き場を問われた萱は「逆にこうなってくると東京のメダルも一つのストーリーとして、僕の人生において生きてくる。しっかり3つ飾りたい」と万感の表情だった。表彰式でずっと号泣していた情熱男の一つの熱い夢物語が完結した。