なでしこ田中美南「INACのメッシ」と信頼される人柄とプレー 米リーグ挑戦でレベルアップ誓う
「パリ五輪・サッカー女子・準々決勝、日本0-1米国」(3日、パルク・デ・プランス競技場)
日本が宿敵の米国とベスト4を懸けて対戦。互いに一歩も譲らず延長戦に突入した。だが、延長前半のアディショナルタイムに1点を失い、日本はベスト8で敗退となった。FW田中美南(30)=ロイヤルズ=は「1本決めるか、決めないかの世界で、責任をすごく感じている。ここに懸けてきた分、悔しいがこれが自分の実力。またここに戻ってこられるように、ここで結果を出せる選手になれるように頑張る」と悔しさをにじませ、レベルアップを誓った。
強いキャプテンシーとストライカーの嗅覚。田中が6月まで所属したWEリーグ・INAC神戸のジョルディ・フェロン監督(45)は「美南はINACのメッシ」と称する。「チーム内で問題が起きても彼女が解決してくれた。選手としても素晴らしいし人格者」と全幅の信頼を置く。
国内リーグで得点王4回、ベストイレブン9回を誇る日本のエースだが、代表の道のりは平たんではなかった。日テレ・ベレーザ在籍時の19年フランスW杯は、同年なでしこリーグMVPで有力視されながらも選外。その後、田中が選んだのはINAC移籍。クラブの安本卓史社長(45)が当時のエピソードを明かした。
獲得に乗り出した当初、田中は移籍に乗り気ではなかった。最初の返事は「移籍は99%ないです」。しかし安本社長は「99%ないなら1%可能性がある」と諦めなかった。「W杯メンバーから外れたことに対してどう考えているのかなどをいろいろ聞く中で、ベレーザでなく他のチームでも活躍できる姿を日本サッカー協会や日本代表の首脳陣に見せた方がいいんじゃないかと提案した。ベレーザはほぼ完成したチーム。そこを出て新しい自分のプレーを見せたらどうだ?と話した」と熱意を込めて交渉。その甲斐あって19年12月31日に田中から「神戸に行きます」と連絡が入った。
移籍後の21年には、秋春制になったWEリーグ初年度の空白期間を利用してドイツリーグ・バイヤー・レバークーゼンへ期限付き移籍し、海外の選手にもまれて実力をつけた。WEリーグ初年度の21-22年でチームを優勝に導くと同時に、21年の東京五輪、昨年のW杯と日本代表の中心選手として戦った。
同社長は「海外と日本を往復する代表活動から帰国して、即リーグ戦の時でも気持ちの入ったプレーを見せた」と主将としての責任感を評価。今年1月は皇后杯優勝に導き、リーグ戦を2位で終え、来季に向け米ロイヤルズ入団が決まった。「ここで学んだことが海外でどれだけ通用するか。残りの現役生活は思う存分自分のためにやってほしい」とエールを送った。神戸での4年半でチーム関係者とファンの心をつかんだエースは、さらなる進化を求めて羽ばたく。
◇田中美南(たなか・みな)1994年4月28日生まれ、タイ出身。川崎ウィングスFCから日テレの下部組織を経て12~19年まで日テレ・ベレーザ所属。20年にINAC神戸に移籍。21年2~6月にドイツ・バイエル・レバークーゼンへ期限付き移籍。21年7月にINAC神戸へ復帰し、WEリーグ初年度優勝、今年1月の皇后杯優勝に貢献。7月に米ロイヤルズ移籍。21、24年五輪、23年W杯日本代表。164センチ。