レスリング金・文田健一郎 40年ぶりの快挙「やっと東京五輪が終わった」 妻・有美さんが共に戦った苦悩の100日

 声援を送る父の敏郎さん(左)と妻の有美さん、長女の遥月ちゃん
 金メダルを獲得し、天に向かって指を突き上げる
 決勝で曹利国(右)を攻める文田健一郎(撮影・中田匡峻)
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 「パリ五輪・レスリング男子グレコローマン60キロ級・決勝」(6日、シャンドマルス・アリーナ)

 男子グレコローマンスタイル60キロ級決勝で、2021年東京五輪2位の文田健一郎(28)=ミキハウス=が昨年の世界選手権3位の曹利国(中国)を4-1で下して金メダルを獲得した。男子グレコで日本勢の制覇は1984年ロサンゼルス五輪52キロ級の宮原厚次以来、40年ぶり。

 2021年8月2日、あの瞬間から1100日間止まったままだった文田家の時計が、ようやく動き出した。スタンドで長女・遥月ちゃんを抱っこしながら見守った妻の有美さんは「あと3分で、この3年間が終わるんだ」と祈るような思いで見つめていた。試合終了のブザーが鳴った瞬間、一緒に戦ってきた最愛のパートナーには感動や喜びよりも安ど感が強かった。

 「ちゃんとピリオドが打てた。東京五輪は(文田家の中で)まだ全然終わってなかったので。彼も私も、ずっとモヤモヤしながら過ごしていた日々が、やっとこれで全部終わったんだと-」

 屈辱の銀メダルに終わった東京五輪を終えた文田は、魂の抜けた「ダメ人間」(有美さん談)になった。レスリングからいったん離れ、朝まで好きなだけ酒を飲んで寝て、昼頃起きたら足りない酒を買い出しに出かける日々。体重は75キロ近くまで増えた。

 その後、2人でドライブ旅行に出かけ、神奈川、名古屋、神戸、四国、広島、福岡と各地を訪れた。「もう1回練習を再開してみようかな」。悠々自適の生活の中で再び闘志が湧き、福岡から13時間かけて一気に東京に戻ると、レスリングという“家”に帰ってパリに向けて走り出した。

 派手に投げて勝つという理想は打ち砕かれ、勝ちに徹する“つまらないレスリング”に着手した。自分を否定するような葛藤に苦しんだが、有美さんにとってもつらい日々だった。「練習の後、遠足から帰ってくるような顔をしている人が、この3年はそうじゃなくなった。とにかくレスリングが好きだという姿にほれたのに、東京五輪の後はそれがなくなっていた。でも仕方がないかなと諦めていた」。食事、育児、生活のサポートをしながら、一緒に歯を食いしばってきた。

 “東京五輪”が終わるまではできなかった話もたくさんある。「重りがパンと外れて、いろんな話ができそう。改めて、あの時こうだったよねとか、昔話がしたいな」。エッフェル塔がさんぜんとライトアップされたふもとで、新たな夜明けに心を躍らせた。

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