上野由岐子 無観客開催の福島でスタンドの熱さ伝えたい 復興五輪への「覚悟決めて」
東京五輪に出場するソフトボール日本代表が15日、東京・晴海の選手村へ入村し、宇津木麗華監督(58)、エースの上野由岐子(38)=ビックカメラ高崎、主将の山田恵里(37)=デンソー=がオンラインで記者会見した。日本は福島市の福島県営あづま球場で、全競技のトップを切って21日午前9時開始の開幕戦でオーストラリアと対戦する。2008年北京五輪以来13年ぶり3度目の五輪へ向けて、上野は完全燃焼を誓った。
きゅっと結わえた髪は、腹をくくったサムライさながらだ。「いろんなものを背負って今大会に臨んでいる。覚悟を決めて今ここに入ってきた」。選手村に入った上野は、静かに言葉を繰り出した。
13年ぶりの競技復活の舞台。その初戦は、東日本大震災で大きな傷を負った福島で開催される。掲げられた「復興五輪」。上野は上野なりにその意味を問うてきたという。「復興五輪として福島の地でスタートすることにどういう意味があるだろうと、ずっと考えてきた」
行き着いたのは、この地にしっかりと向き合うことだった。「自分たちが伝えたいものを福島の地で伝えられるように。(全競技の)日本の代表としていいスタートが切れるように。グラウンドで自分たちのすべてを出し切りたい。その思いで福島に入りたい」
コロナ禍で、開催の是非そのものも問われ続けた1年半。あらがえない社会状況にほんろうされても、心を乱さなかった。金メダルを獲得した北京五輪当時との違いを上野は「一番はメンタル面だと思う。ソフトボールとの向かい合い方が、13年前と今では180度違う」と振り返る。
北京以来の五輪復活を遂げたソフトボールは、今大会で再び実施種目から消える。日本のエースとして競技の未来を背負う五輪で「使命感」を問われた上野は「特に大きな使命感としてイメージするものはない。それより大きなものを背負ってマウンドに立てるメンタルの強さと心の準備、体の準備して乗り込んでいるつもり」と言い切った。その目はレジェンドとしての社会的責任を自らに課しているようでもある。
首都圏の無観客が決まった後、福島県は一時、観客を入れる方針を打ち出していたが、すぐに無観客に変更された。それでも上野には観客が見えている。「無観客でも熱い思いをテレビを通して伝えたい。スタンドの熱さを周りの地域に伝えられるようにしっかりプレーしたい」。大会中の22日には39歳になる。使命を超えた存在意義を証明する五輪が幕を開ける。