目指した東京五輪“裏方”で臨む元レスリング代表 宮原優さん 最初はメールも苦戦
目指していた東京五輪に、競技者とは違う形で臨む元アスリートもいる。レスリング女子で世界選手権にも出場した元日本代表の宮原優さん(27)は、2019年限りで現役を引退し、現在は博報堂DYスポーツマーケティングの社員として勤務。スケートボード・ストリート男子五輪代表の白井空良(19)=ムラサキスポーツ=のマネジメント業務も担当しており、選手経験を生かしながら“裏方”として迎える夢舞台を心待ちにしている。
「最初はメールの打ち方もわからなくて、一から教えてもらって。今でも苦労しています(笑)」。レスリング漬けの生活に別れを告げ、本格的に社会人デビューした昨年4月。ビジネスメールの作法すらよく知らなかった宮原さんは、マットとは勝手が違う新たな舞台に悪戦苦闘しながら一歩を踏み出した。
2年前まで本気で五輪を目指していた。7歳からレスリングを始め、中学2年からは当時できたばかりのJOCエリートアカデミーに1期生として入校。13年には世界選手権に出場し、W杯で優勝に貢献するなどトップ選手として活躍した。ただ、憧れの五輪への道は険しく、16年リオデジャネイロ大会は落選。53キロ級に転向した東京五輪代表争いでは後輩の向田真優に敗れ、19年12月の全日本選手権を最後に現役生活にピリオドを打った。
選手時代から所属していた現在の会社でビジネスパーソンとして再出発。選手マネジメント業務をはじめとした様々なアスリートビジネスに取り組み、アスリートの価値やパフォーマンスUPに向けて日々奮闘している。担当選手の一人であるスケートボードの白井は東京五輪で表彰台を射程に捉える新鋭。宮原さんは競技ルールから勉強しながら選手に寄り添いつつ、時には自身の経験を生かして栄養摂取などの助言をすることもある。
選手として出場する道は絶たれたが、裏方として携わる五輪は「ワクワクします。選手の思いを想像すると、絶対最高じゃん!って。(担当選手が)勝ったらうれしいし、負けたら悔しいし」。宮原さんについて、上司にあたる佐々木俊明さんは「わからないことを何度も聞いてくることもあるが、自分で納得して仕事したいという表れだと思う」とうなずき、「高いレベルでやってきた競技者の実体験を基にしているから、選手たちも耳を傾けやすいし、言葉に説得力も出てくる」と期待を込める。
新たな夢もある。昨春の研修で宮原さんは、社長に対して「レスリングをもっとメジャーにしたい」とプレゼンで言い切った。競技の面白さを知っているからこそ4年に1度しか注目されない現況がもどかしい。「米国みたいに派手な演出の大会があってもいい。米国では1年に1度タイムズスクエアの前でレスリングの大会を行っている。日本でも例えば渋谷109の前などたくさんの人が集まる場所でレスリングの大会を開催したい」。“東京五輪後”の世の中も見据えながら、元選手として、社会人として、自国開催の祭典を目に焼き付ける。