新井千鶴が金!日本柔道史上初5日連続金 壮絶準決16分41秒の大死闘で相手失神
「東京五輪・柔道女子70キロ級・決勝」(28日、日本武道館)
女子70キロ級は新井千鶴(27)=三井住友海上=が、決勝でミヒャエラ・ポレレス(オーストリア)に優勢勝ちして、初の金メダルを獲得した。同階級では、リオデジャネイロ五輪の田知本遥に続いて2大会連続の優勝。日本女子の金メダルは今大会2個目となり、複数階級制覇は2階級を制した2008年北京五輪以来、3大会ぶり。今大会は男子も合わせると全5日連続で6個目の金メダルとなった。
新井が笑った。コーチボックスに向かって左拳を突き上げた。「うれしい。その一言です」。決勝は技ありを先行した後も攻め続け、最後まで抑え込みを狙いながら試合終了を迎えた。5年間、悔し涙を浮かべることの方が多かった目からさわやかな涙が一筋。「振り返れば苦しいことの方が多かったが、あきらめずにやってきて報われた瞬間だった。最高の気持ち」。多くの失意を乗り越え悲願の金メダルをつかんだ。
最大の試練は準決勝。22歳の新鋭タイマゾワ(ロシア)と一進一退の死闘を展開した。3月のGSカザン大会で屈した強敵は体が軟らかく、投げても投げてもポイントが入らない。16分過ぎには得意の内股を返されかけて映像判定に。「続けさせてくれ-」。祈りが通じ、続行した直後にチャンスが訪れた。腹ばいになった相手に絞め技を仕掛ける。「(首元に)指三本しか入ってなかったが、何でもいいから決まってくれと」。16分41秒、相手が失神する壮絶決着で最難関を突破した。
小学1年で柔道を始め、中学まで無名だったが、児玉高3年時にインターハイ初出場初優勝。20歳で国際大会を制し未来のエースと期待された。しかし、代表入りまであと一歩だった16年リオデジャネイロ五輪は最終選考大会で敗れ落選。現地ブラジルで田知本遥の優勝を眺めるしかできなかった。
「がむしゃらにやっている中で代表選考にもつれ込んだが、自分では追いついていない部分もあって周りとギャップがあった。覚悟を持てていなかった」
17、18年世界選手権を連覇し不動のエースとなったはずが、またも下降線をたどった。武道館で開催された19年世界選手権から3連敗。「もう(五輪は)いいかなと思っているところもあった。精神的にぐちゃぐちゃになって」。真っすぐな性格がもろ刃の剣となって自らをむしばんだ。
我に返ったのは同年末に帰省した際。母昌代さんから「誰もが立てる場所じゃないのに自分で壊すのはもったいない。出し切って終わった方が良くない?」と言われ、「そうだよな、もったいないよな。このまま終わったら自分がかわいそう」。再度立ち直り、五輪切符を取りきった。
「進路選びも部活選びも、節目節目で悔しい思いをしているから柔道を選んでいた」
幼少期からタイトルに無縁だったからこそ、満足せずに続けてきた大器が晩成。最後にとびっきりの笑顔がはじけた。