リレー侍 露呈した“宝刀”頼み 日本記録設定の勝負バトン届かず 「失敗なし」の油断
「東京五輪・陸上男子400mリレー・決勝」(6日、国立競技場)
16年リオデジャネイロ五輪銀メダルの日本は、予選と同じ1走多田修平(住友電工)、2走山県亮太(セイコー)、3走桐生祥秀(日本生命)、4走小池祐貴(住友電工)で挑んだが、1、2走間でバトンが渡らず、まさかの途中棄権に終わった。男子100メートル王者のヤコブスを擁するイタリアが37秒50で優勝。2位は英国。3位はカナダだった。
意地と誇りを込めたバトンは、届かなかった。大外9レーンからスタート。目の前には誰もいない。ただ自分たちを信じて走るだけ、のはずだった。
戦いを終えた山県は言った。「受け入れるには時間が掛かる。目の前に起こっている、これが現実なのか」-。
1走の多田が好スタートを切る。狙っていたのは、お互いにスピードに乗ったままでのバトンパス。しかし、多田のバトンが2走山県の手に収まらない。一線を越える。日本の戦いは130メートル地点で突如として終わった。山県は天を仰ぎ、多田はしゃがみ込み、涙した。桐生は腰に手をやり、小池は頭を抱える。多田は「バトンミスしてしまった。原因は分からない」と瞳を濡らし、首を振った。
予選のタイムは38秒16で決勝進出した8チーム中8番目。日本は5日の夜、6日の昼に2度のミーティングを行い、戦略を練った。設定した決勝タイムは37秒4~5。日本記録も視野に入る設定だった。山県は「バトンワークと個人の走りの修正で結構上積みできる、と話していた」と明かす。土江コーチは「そこまでは伸ばせると、ざっくりした計算で出せた。攻めて金メダルか失格かギリギリのライン」と説明した。
結果としては裏目に出た。極限の緊張感の中、1走多田、2走山県のところでのバトンミス。「一度も失敗のなかった組み合わせ。そこに油断があったかもしれない」と、土江コーチ。まさかだった。
ただ、“伝家の宝刀”であるバトン頼みが露呈してしまったともいえる。リオ五輪での世界を驚かせた銀メダル以降、自国開催での金メダルの期待を担ってきた“リレー侍”。この間に山県、サニブラウン、小池、桐生の4人が9秒台に到達。レベルは確かに上がっていると誰もが思っていた。
甘くなかった。コロナ禍で約1年半の間、ほとんど海外レースの経験を積めなかった中で迎えた夢舞台。個人では100、200メートルとも出場選手全員が初戦敗退という93年ぶりの屈辱を味わった。速さだけではなく、強さを磨けなかった日本スプリント界に厳しい現実が突きつけられた。
勝負のバトン。逆に言えば、バトン以外に勝算を見出すことができなかった。世界も日本を見習い、バトンに力を入れてきた中で、圧倒的な優位性も消えていた。勝ったのは伏兵イタリア。ただ、今大会100メートル金メダリストを輩出し、準決勝にも1人が進んでいた。さらに「イタリアはバトンもやっている」(土江コーチ)。桐生は「リレーでも個人でも世界と離されている。記録として、結果としてそれが残っている。深く受け止めないといけない」と、現実を受け止めた。