リレー侍バトン届かず お家芸でまさか…途中棄権で幕 多田「原因は分からない」
「東京五輪・陸上男子400mリレー・決勝」(6日、国立競技場)
男子400メートルリレー決勝で多田修平(25)=住友電工、山県亮太(29)=セイコー、桐生祥秀(25)=日本生命、小池祐貴(26)=住友電工=の日本は1走から2走へバトンが渡らずゴールできなかった。イタリアが37秒50で初優勝した。女子1500メートルに日本人で初めて出場した21歳の田中希実(21)=豊田自動織機TC=は決勝で3分59秒95をマークし8位で入賞した。男子50キロ競歩で川野将虎(22)=旭化成=が3時間51分56秒で6位入賞を果たした。女子20キロ競歩は藤井菜々子(22)=エディオン=が1時間31分55秒で13位。女子やり投げ決勝で北口榛花(JAL)は55メートル42の12位だった。
意地と誇りを込めたバトンは、届かなかった。大外9レーンからスタート。目の前には誰もいない。ただ自分たちを信じて走るだけ、のはずだった。
戦いを終えた山県は言った。「受け入れるのは時間が掛かる。目の前に起こっている、これが現実なのか」-。
1走の多田が好スタートを切る。狙っていたのは、お互いにスピードに乗ったままでのバトンパス。しかし、多田のバトンが2走山県の手に収まらない。一線を越える。日本の戦いは130メートル地点で突如として終わった。山県は天を仰ぎ、多田はしゃがみ込み、涙した。桐生は腰に手をやり、小池は頭を抱える。多田は「バトンミスしてしまった。原因は分からない」と瞳を濡らし、首を振った。
リオ五輪での世界を驚かせた銀メダル以降、自国開催での金メダルの期待を担ってきた“リレー侍”。この間に山県、サニブラウン、小池、桐生の4人が9秒台に到達。レベルは確かに上がっていると誰もが思っていた。ただ、甘くなかった。コロナ禍で約1年半の間、海外レースの経験を積めなかった。井の中にいた1年半を経て、やってきた夢舞台。個人では100、200メートルとも出場選手全員が初戦敗退という93年ぶりの屈辱を味わった。速さだけではなく、強さを磨けなかった日本スプリントは、世界から後退していた。
勝負のバトン。逆に言えば、バトン以外に勝算を見出すことができなかった。ただ、世界も日本を見習い、バトンに力を入れてきた中で、圧倒的な優位性も消えていた。桐生は「リレーでも個人でも世界と離されている。記録として、結果としてそれが残っている。深く受け止めないといけない」と、現実を受け止めた。
16年リオ五輪以降、17、19年世界選手権とリレーでのメダルを死守してきたが、ついに途切れた。パリ五輪まであと3年。5年前、国民的ヒーローになった侍たちが大きな分岐点を迎えた。